伝統染織品の生産と消費――文化遺産化・観光化によるローカルな意味の変容をめぐって
研究期間:2018.10-2023.3
中谷文美
キーワード
伝統染織、観光、文化遺産
目的
本研究では、ローカルな生活世界において一定の社会的・文化的意味と機能を持ち,使用されてきた伝統染織品が商品化され,従来の生産と使用の文脈を離れた市場に流通するようになった過程を考察対象とする。とくに、ローカルな文脈に根付いた文化実践を国単位のものとしてグローバルな文脈に引き上げ、可視化する無形文化遺産の認定や,商品としての販路開発と結びつくと同時に外部者からの評価を強化する観光化が、アジア地域を中心とする各地の伝統染織品の生産と消費にどのような効果や影響をもたらすのかという点を議論の軸とする。具体的には、1)個別の伝統染織品に対してどのような価値づけが行われるようになったか、2)個別の伝統染織品が生産者および生産者を取り巻く社会において保持してきたローカルな意味がどのように変容してきたか、 3)そこに生じる変容は,伝統染織生産に用いられる技法や素材の選択にも影響を及ぼしているかといった課題に取り組む。
研究成果
本共同研究メンバーの調査対象地は中国、ラオス、インドネシア、インド、トルコ、ウズベキスタン、オーストラリアと多岐にわたり、いずれのメンバーもさまざまな染織品の生産・消費の現場に長年関わってきた経験を持つ。研究会では個別事例の研究成果を報告しあうとともに、特別講師の招聘や館外開催の研究会を通じて共通する参照枠組みを設け、各自の調査地で生じている変化の意味を考え、言語化する作業を行なった。研究期間後半期には、6つのテーマに絞った集中プレゼンと討議を実施した。
これらの議論を通じてさまざまな論点が浮かび上がってきたが、代表的なものを以下にまとめる。
1)布の物質的特性とグローバルな市場展開
地域や文化の境界を超えて流通する生産物は他にも無数にあるが、布の物質的特性は、その素材や技法の多様性と分かち難く結びついている。素材調達の範囲や製作技術の進化により生産物の多様性はさらに増大し、また消費者の広域化・多様化といった現象も生じた。だからこそ、グローバルな市場展開においては、個別の布の背景にまつわる情報や物語が価値を持つことになる。
2)素材・道具・技術の継承
布生産の持続性を考える上で重要な要因の一つに、素材へのアクセスを可能にする広義の環境(森林などの植生、集落の人間関係など)がある。また、ローカルに継承される技術と外部から評価される技術に乖離がみられる場合もある。とくに文化遺産化や観光化の進展のもとで、政治的・経済的要因に加え、グローバル消費者の動向が継承すべき素材・技術の選別を左右する状況が広がっている。
3)プリント技術の功罪
布の使い手・用途に変化が生じると同時に、作り手自身の身体や生活環境も変化するなかで、文様の複製により布の大量生産を可能にするプリント技術は、在来技術による拘束からの解放を意味しうる。また廉価品の普及により、ある種の威信財の使用における民主化が進む場合もある。他方、「プリント化」は技法の固有性を度外視して特定の布に表現される色や文様などの意匠だけが取り出され、前景化される現象をもたらすものである。誰がどのような文脈でプリント化を受け入れ、また拒絶するのかを検討することで、伝統染織の生産・流通・消費に関わる多様なアクターの相互作用を見通すことが可能になる。
2022年度
当初、最終年度となるはずであった2021年度に予定していた4つのテーマ討議のうち、「着物」のみが未実施に終わっている。そのテーマと関連して計画していた館外での研究会も実施できなかったため、今年度は、国内の着物産地の共同調査を兼ねた館外研究会を実施するとともに、これまでの共同研究のしめくくりとなる総合討論のための研究会を開催する。
【館内研究員】 | 上羽陽子 |
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【館外研究員】 | 青木恵理子、五十嵐理奈、今堀恵美、落合雪野、金谷美和、窪田幸子、佐藤若菜、杉本星子、田村うらら、松井健、宮脇千絵 |
研究会
- 2022年9月9日(金)9:30~17:30(鹿児島県大島郡)
-
テーマ討議6:着物の生産・流通・消費システム
前田豊成(前田紬工芸代表・本場奄美大島紬協同組合前組合長)「本場奄美大島紬の生産と流通の現状①産地の実情とその変化」
前田圭祐(本場奄美大島紬協同組合理事)「本場奄美大島紬の生産と流通の現状②流通事業者・若手技術者の新たな取り組み」
全体討論① 着物・帯地生産の現状:丹波藤織り・個人作家を中心に
- 2022年9月10日(土)9:30~18:00(鹿児島県大島郡)
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全体討論② 着物・帯地消費の現状:現代日本において着物を着ることの意味をめぐって
金井一人(金井工芸社長)「泥染技術の継承と染色業者の挑戦」(仮)
成果取りまとめに向けて
- 2022年2月23日(木・祝)13:00~18:00(国立民族学博物館 第4セミナー室 ウェブ開催併用)
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中谷文美(岡山大学)「共同研究の成果について」
各メンバーによる研究成果発表①
- 2022年2月24日(金)9:30~12:30(国立民族学博物館 第4セミナー室 ウェブ開催併用)
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各メンバーによる研究成果発表②
総合討論
研究成果
2022年度は延長を申請し、認められた本共同研究の最終年となり、2回の研究会を実施した。まず、2021年度にコロナ禍のために見送らざるを得なかった館外開催による研究会では、テーマ討議6「着物の生産・流通・消費システム」に関連して、本場奄美大島紬の産地である鹿児島県奄美市と龍郷町において、研修制度により若手生産者の確保に尽力している本場奄美大島紬協同組合、営業先の多角化を工夫している本場奄美大島紬の織元(前田紬工芸)、そして近年呉服業界の外でも多様な事業展開をしている泥染めの工房(金井工芸)を訪ねる機会を得た。全体討論では、これまでのこの共同研究での議論の流れや各メンバーが個別のフィールドで培った知見も踏まえつつ、生産者の世代交代や生活できる収入の確保の困難といった課題について、他の織物産地との比較を交えた議論を行った。
最終研究会となる第2回では、メンバー全員が4年半にわたる共同研究の蓄積の中で最も重要と考える論点についてのプレゼンを行い、総合討論を実施した。
2021年度
最終年度となる本年度は、昨年度後半から着手した「テーマ討議」を継続し、伝統染織品の生産と消費をめぐる諸問題を4つのテーマ群に整理したうえで、地域比較が可能な枠組みを探り、最終的なまとめの討論につなげたい。昨年度の①ファッションショー、②伝統として残す技術・素材・道具に続き、本年度取り上げる予定のテーマは①『他者』の布の所有・コレクション、②プリント技術、③着物、④手仕事と機械/テクノロジー、である。一つのテーマにつき、3人~5人のメンバーが報告を行い、必要に応じて特別講師を招へいする。③については、産地の共同調査を兼ねた館外開催を予定している。
初年度から継続している「モノ語り」も、未発表のメンバーが担当する。さらに状況が許せば、昨年度計画通りに実施できなかった民博収蔵品の熟覧も行う予定である。
【館内研究員】 | 上羽陽子 |
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【館外研究員】 | 青木恵理子、五十嵐理奈、今堀恵美、落合雪野、金谷美和、窪田幸子、佐藤若菜、杉本星子、田村うらら、松井健、宮脇千絵 |
研究会
- 2021年7月3日(土)10:30~18:00(ウェブ開催)
- テーマ討議3「プリント技術とオーセンティシティ」
宮脇千絵(南山大学)「ろうけつ染め・シルクスクリーンプリントにみるモン衣装の伝統性の推移」
中谷文美(岡山大学)「プリント化する伝統織物――何が問題なのか」
窪田幸子(芦屋大学)「授産事業からハイアートへ――アボリジニのプリント布の展開」
上田文(関西学院大学)「機械捺染にみるデザイン・技術・生産――近代京都の染色産業から」
総合討論
- 2021年7月4日(日)10:00~17:00(ウェブ開催)
- テーマ討議4「手仕事と機械」
上羽陽子(国立民族学博物館)「手紡ぎだから安い糸」――アッサム野蚕糸の生産現場から
金谷美和(国際ファッション専門職大学)「手仕事と機械生産の境界はあるのか?――インド・木版捺染アジュラクの事例から」
今堀恵美(東海大学)「ローカル化されたテクノロジーとしての刺繍用ミシン――ウズベク刺繍の事例から」
佐藤若菜(新潟国際情報大学)「機械刺繍は衣装製作に何をもたらしたのか――中国貴州省ミャオ族の事例から」
総合討論
- 2021年10月2日(土)10:30~16:30(ウェブ開催)
- テーマ討議5「他者の布」とコレクション
五十風理奈(福岡アジア美術館)「美術作家が作品に用いる他者の布――福岡アジア美術館『記憶の衣服、心の布』展(2007年)より」
田村うらら(金沢大学)「日本における手織絨毯受容と消費」
奥村忍(みんげい おくむら)「中国少数民族の工芸の現状と流通~みんげい おくむらの買い付けから」
全体ディスカッション
- 2022年2月20日(日)13:30~16:30(ウェブ開催)
- 研究成果公開及び期間延長(見込み)に伴う来年度研究計画についての全体討論
研究成果
本年度は3回の研究会をオンラインで実施し、昨年度に続いてテーマ別の集中討議を行った。(1)「プリント技術とオーセンティシティ」(2)「手仕事と機械」(3)「『他者の布』とコレクション」のうち、とくに(2)と(3)は関連も深いため、2日連続で実施した。伝統染織の大衆化・民主化を可能にするプリントと、ニッチな市場に向けての高級かつ「本物」イメージに結びつく手織りへの二極化、他方でプリント化されたからといって直ちに「まがいもの」とみなされるわけではないといった論点などが出た。また、プリント技術に着目することで、いわゆる手仕事と機械生産が連続線上にあることや、機械化が価格優位性を生むとは限らない現状が見えてきた。
成果公開については、各テーマ討議を核とする形態で学会発表などを行うと同時に、初年度から実施してきた「モノ語り」をベースに『季刊民族学』での連載を企画することになった。
2020年度
本年度も4回にわたって研究会を開催する予定である。 第1回は、昨年度先方のご都合等により招へいがかなわなかった特別講師2名を迎え、アジア地域の伝統染織を用いた衣服のデザイン・販売の経験に基づいた知見を共有していただき、日本人消費者の嗜好の特質や仲介者の役割について議論を行う。「モノ語り」シリーズも継続するほか、第2回研究会の内容とも深くかかわる特別展「先住民の宝」も全員で観覧する。第2回は館外開催とし、本年にオープンする北海道白老郡白老町の国立アイヌ民族博物館での展示を観覧するとともに、伝統的染織・工芸品の遺産化・観光化に関連する内容で研究会を実施する。第3回、第4回は、2巡目となるメンバーの研究発表を行うとともに、当初計画の通り、国立民族学博物館の収蔵品の中から、メンバーの調査対象地にかかわる伝統染織の熟覧を実施し、さらなる議論の精緻化につなげる。
【館内研究員】 | 上羽陽子 |
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【館外研究員】 | 青木恵理子、五十嵐理奈、今堀恵美、落合雪野、金谷美和、窪田幸子、佐藤若菜、杉本星子、田村うらら、松井健、宮脇千絵 |
研究会
- 2020年9月27日(日)10:00~18:00(国立民族学博物館 第6セミナー室 ウェブ会議併用)
- 金谷美和(国際ファッション専門職大学)「モノ語り Part VI:インド、カッチ地方のアジュラック」
- 民博企画展「知的生産のフロンティア」観覧
- 三谷武(MITTAN)・小林史恵(CALICO)「アジアの布から生み出すデザイン~MITTAN・CALICOの活動から」
- 総合討論・今後の打ち合わせ
- 2020年10月21日(水)18:00~19:30(ウェブ会議)
- 共同研究の中間総括と成果取りまとめについての打ち合わせ
- 2021年1月24日(日)10:30~18:00(ウェブ会議)
- テーマ討議1「伝統染織とファッションショー」
宮脇千絵(南山大学)「エスニック・ファッションショーに関する試論」
中谷文美(岡山大学)「バリのテキスタイルinパリコレ:Appropriation or CSI?」
落合雪野(龍谷大学)「ラオスのハンディクラフト業界における<文化的知的所有権>をめぐる動向:#MaxOmaからファッションショーまで」 - ワークショップ「布と社会をとらえるテーマ群をめぐって」
- 2021年3月23日(火)13:00~17:30(国立民族学博物館 第6セミナー室 ウェブ会議併用)
- 杉本星子(京都文教大学)「モノ語りPart VII マダガスカルの野蚕と家蚕―島固有種の多様性―」
- テーマ討議2「伝統として残す素材・技術・道具」
落合雪野(龍谷大学)「繊維植物を利用し続けるために―農学と森林学からの検討」
金谷美和(国際ファッション専門職大学)「素材からみる藤織りの伝承」
上羽陽子(国立民族学博物館)「女神儀礼用染色をめぐる伝統イメージ」
研究成果
今年度は,ウェブ開催を含め計4回の研究会を開催した。第1回は「モノ語りPart VI」として、金谷がインド・グジャラート州カッチ地方の木版捺染について調査スライドや現物を用いて解説した。特別講師として招いたMITTANとCALICOという2種類のブランドの代表者からは,大量生産・大量消費を前提とする社会のあり方に対する疑問から生まれた,オルタナティブなものづくりとマーケティングの姿勢を聞いた。
本共同研究が次年度は最終年度となることを踏まえ、第2回は成果取りまとめに向けての方針を成立する全体討論を行った。その際の議論に基づき、第3回は集中討議をするためのテーマの例として「伝統染織とファッションショー」を設定し、落合、中谷、宮脇が報告を行った。続いてワークショップ方式でテーマの洗い出しを行い、第4回はその中の一つ、「伝統として残す素材・技術・道具」のもとに上羽、落合、金谷が報告をした。「モノ語りPart VII」としては、杉本とともに、民博の収蔵庫内の資料熟覧を行った。
2019年度
本年度は,3回にわたって研究会を開催する。第1回は,まだ報告を行っていないメンバー4名による研究報告を行うほか、染織の実作経験のある研究者を特別講師として招く。また、「モノ語り」シリーズとして、長年のフィールドとのかかわりを通じて収集した布工芸製品を時代背景や生産地の状況、消費の動向と絡めて解説する報告を合わせて行う。第2回は館外開催とし、日本国内の伝統工芸品の製作現場を訪問して情報収集と意見交換を実施するほか、現地在住の研究者を交えて研究会を行う。第3回には、アジア地域の伝統染織を用いた衣服のデザイン・販売に従事している専門家を特別講師として迎え、日本人消費者の嗜好の特質や仲介者の役割について議論を行う。さらに国立民族学博物館所蔵のEC(エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ)フィルムの視聴を通じて、当初設定した研究枠組みの中で柱となるテーマの抽出を行う。
【館内研究員】 | 上羽陽子 |
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【館外研究員】 | 青木恵理子、五十嵐理奈、今堀恵美、落合雪野、金谷美和、窪田幸子、佐藤若菜、杉本星子、田村うらら、松井健、宮脇千絵 |
研究会
- 2019年5月25日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第6セミナー室)
- 佐藤若菜(新潟国際情報大学)「収集・分析・撮影・展示される民族衣装:日本が中国少数民族文化に与えた影響に着目して」
- 今堀恵美(東海大学)「ウズベキスタンのシルクロード観光と刺繍用絹糸」
- 中谷文美(岡山大学)「モノ語り Part III: バリの紋織」
- 2019年5月26日(日)10:00~16:30(国立民族学博物館 第6セミナー室)
- 落合雪野(龍谷大学)「手織り布をめぐるアグリツーリズムの展開――ラオス北部のタイ系コミュニティーから」
- 日下部啓子(首都大学東京)「語られる織布:トラジャの慣習復興におけるアイデンティティの在り処としての機織りをめぐって」
- 総合討論
- 2019年7月7日(日)10:00~17:00(石川県政記念しいのき迎賓館[石川県金沢市])
- 松村恵里(金沢大学)「金沢における伝統工芸品としての加賀友禅の技術継承をめぐって」
- 田村うらら(金沢大学)「モノ語り Part IV」
- 総合討論
- 2019年12月8日(日)10:00~18:00(国立民族学博物館 第4セミナー室)
- 丹羽朋子(国際ファッション専門職大学)「ECフィルムとは何か?<紡ぐ・綯う・編む・織る>映像の活用をめぐって」
- ECフィルム上映+ディスカッション
- 全体討論
- 2020年2月16日(日)10:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- 松井健(東京大学)「現在のキモノの生産・流通・消費について:『キモノストック』という視点」
- 中谷文美(岡山大学)「『線具』としてのヒモへの注目から見えること」
- 宮脇千絵(南山大学)「モノ語り Part V」
- 全体討論
研究成果
今年度は4回の研究会を開催した。第1回は、まだ1巡目が終わっていないメンバーがそれぞれの調査地域に関する研究報告を行ったほか、特別講師として織物の実作者でもある日下部啓子氏を招いた。第2回は、金沢での館外開催とし、加賀友禅作家でもある松村恵里氏を特別講師としたほか、加賀友禅及び能登上布の製作現場を訪問した。第3回は、国立民族学博物館が所蔵するエンサイクロペディア・シネマトグラフィカ(EC)映像のうち、「紡ぐ・綯う・編む・織る」行為を取り上げたものを素材別・技法別に上映し、特別講師の丹羽朋子氏とともにディスカッションを行った。第4回からは、メンバー報告の2巡目を開始した。各回を通じて「モノ語り」Part III~Vも実施し、実際に布製品を持ち寄って全員で熟覧しつつ、収集の背景や時代の変遷による生産形態、素材、技法、用途などの変化についてのプレゼンテーションとディスカッションを行った。個別の調査地における現況の詳細な理解に加え、メンバーによる布生産地でのインタビューやフィルム視聴といった経験を共有することで、知見を深めた。
また、今年度はメンバーの大半が参加する英文論文集(Fashionable Traditions: Asian Handmade Textiles in Motion)を刊行することができた。
2018年度
初年度は3回,その後は毎年度4~5回のペースで研究会を実施する。
平成30年度
予定している3回のうち,2回を2日間にわたって開催するものとする。まずはメンバーそれぞれの調査対象地における伝統染織品の生産と消費,とりわけグローバル市場での商品展開の状況についての詳しい報告を行うことで,全体像をつかむことをめざす。本共同研究に先行する科学研究費補助金の研究プロジェクト(基盤A)に参加したメンバーを中心に,これまで明らかになってきた論点を確認するとともに,今後の議論に資する枠組みを明確にしたい。合わせて,メンバーがカバーしていない領域について,染織品の実作者でありコレクターでもある研究者など,異なる視点からのインプットを期待できる特別講師を招聘する。
【館内研究員】 | 上羽陽子 |
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【館外研究員】 | 青木恵理子、五十嵐理奈、今堀恵美、落合雪野、金谷美和、窪田幸子、佐藤若菜、杉本星子、田村うらら、松井健、宮脇千絵 |
研究会
- 2018年10月6日(土)14:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
- 中谷文美(岡山大学)「伝統染織品の生産と消費」をめぐる問題提起
- 各共同研究者のテーマ紹介と研究の方向性に関する全体討論
- 2018年12月8日(土)13:30~18:00(国立民族学博物館 第3演習室)
- 窪田幸子(神戸大学)「〈クラフト〉から〈アート〉へ?――オーストラリア、アーネムランドにおける女性のテキスタイル制作の軌跡」
- 青木恵理子(龍谷大学)「距離の消費――現代東インドネシアのローカルな染織から19世紀パリのショッピング・アーケードまで」
- 全体討論
- 2018年12月9日(日)10:30~17:30(国立民族学博物館 第3演習室)
- 金谷美和(国立民族学博物館)「織りの伝統を継承する――日本における自然布の保全活動」
- 松井健(東京大学)「変転/変容する商品としての布」
- 宮脇千絵(南山大学)「民族衣装の〈あたらしいスタイル〉――中国雲南省モン族のファッションとアイデンティティ」
- 2019年2月17日(日)13:00~18:00(国立民族学博物館 第6セミナー室)
- 中谷文美(岡山大学)「文化をリストにするということ――インドネシア伝統染織をめぐる境界のポリティクスと遺産化」
- 田村うらら(金沢大学)「伝統を継ぎ接ぎする――トルコのファッショナブル絨毯の流行について」
- 布工芸品を見る・語る(1):窪田幸子(神戸大学)
- 2019年2月18日(月)10:00~17:30(国立民族学博物館 第6セミナー室)
- 上羽陽子(国立民族学物博物館)「染色技術の戦略的選択――インド西部グジャラート州の女神儀礼用染色布から」
- 杉本星子(京都文教大学)「御召から紬へのキモノの流行の変化と西陣の黄昏」
- 布工芸品を見る・語る(2):落合雪野(龍谷大学)
- 総合討論
研究成果
初年度となる2018年10月~2019年3月は、3回にわたって研究会を開催した。第1回は、研究会の趣旨を代表から説明したほか、欠席者も含めメンバー全員が自己紹介シートを作成し、布・工芸に関する各自の研究実績や現在の関心、今後取り組む予定の課題などを共有した。
第2回、第3回は、本共同研究の前史と位置付けている科研費の共同研究の成果に基づき、窪田、青木、金谷、松井、宮脇(第2回)及び中谷、田村、上羽、杉本(第3回)が集中的に報告を行った。これらの報告及び全体討論を通じて、観光、文化遺産、市場戦略等において「伝統」と位置付けられることの多い各地の染織品に関し、さまざまな変化をもたらす要因を洗い出し、今後の議論のベースを作ることができた。
合わせて、第3回にはメンバーが調査地でこれまで収集してきた布・工芸品の一部について、それらの具体的なモノと研究者自身のかかわり、あるいはそれらのモノに表れている変化と生産現場や市場の変化を重ねて紹介する試みを行った。Part Iは窪田、Part IIは落合が担当した。