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博物館における持続可能な資料管理および環境整備――保存科学の視点から

研究期間:2017.10-2023.3

園田直子

キーワード

博物館環境、資料管理、保存科学

目的

本館における保存科学研究では、博物館機能をもつ研究所という特色を生かし、基礎的な研究と、それを発展させた実践的な研究に取り組んでいる。その内容は、モノ資料を主たる対象に、生物生息調査や温度・湿度モニタリングなどの保存環境データを効率的に分析するプログラムの開発、データの分析結果をもとにした展示・収蔵環境の整備とその検証、化学薬剤を用いない殺虫処理法の開発および条件改良、収蔵スペースの狭隘化対策と収蔵改善を目的とした収蔵庫の再編成、被災文化財への応急措置を含めた保存修復法の開発など、多岐にわたる。
本研究では、これまでの研究をさらに深化させ、環境への配慮が一層求められる21世紀の社会状況に適合する持続可能な資料管理および保存環境の基盤整備を目的とする。ここでは、研究対象をモノ資料だけでなく、映像資料にひろげるとともに、大規模な博物館等の施設のみならず、設備、人手、経費が限られる小規模な博物館等の施設や個人所蔵者でも応用・実践が可能な保存の条件や指針を提示するという新たな軸を設定して研究を進める。その上で、保存科学の基礎的・実践的研究にくわえて、21世紀の社会状況のもとでの資料の保存と活用について、その意義を整理し再考する。

研究成果

本研究は当初、2017年10月~2021年3月で計画していたが、新型コロナウイルス感染症の影響により2年間の延長が認められた。期間中、共同研究では、生物生息調査や温湿度モニタリングなどの博物館の環境調査、化学薬剤を使用しない殺虫処理法、戦後日本の虫害対策、小規模施設が抱える問題、映画フィルムの保存状態調査、大阪北部地震による被害とその対応、さらにはオランダやデンマークの持続可能な収蔵施設の事例など、国外の動向にも目を向けながら、共同研究員それぞれの専門性や問題意識に基づいた発表をもとに、議論を重ねた。2020年度は、コロナ禍での開館を経験した、国立民族学博物館、奈良国立博物館、九州国立博物館、東京国立博物館、東京都写真美術館、一橋大学社会科学古典資料センターの事例報告からなる研究会「博物館における新型コロナウイルス感染症対策」を、民博と学術提携を結んでいる一般社団法人文化財保存修復学会と共同でウェブ開催した。編集した映像を、学会のホームページで公開したところ、海外の日本人研究者からもアクセスいただいた。
また、館外研究会を、2018年度は国立映画アーカイブ相模原分館と東京都写真美術館、2019年度は宮内庁正倉院事務所と奈良国立博物館、2022年度は九州国立博物館で開催し、共同研究員の間で保存科学の実践に関わる共通基盤の形成につとめた。
博物館をとりまく社会的背景は変化している。共同研究を始めた頃は、資料保存に配慮しつつ、いかに持続可能な手段で博物館環境を整備することができるかが問われていた。この問題は近年の世界的なエネルギー価格の高騰によってさらに深刻化している。また、新型コロナウイルス感染症の発生を受け、感染予防対策を優先しながら、いかに適切に資料管理をおこなうかという問題が生じている。共同研究はこれらの課題にどのように向きあい、対応してきたか、その経験や課題を共有し、研究者それぞれの知見を深める機会ともなった。

2022年度

2022年度は、2020年度(そして2021年度)に計画していたが、新型コロナウイルス感染症の蔓延状況のため、実現できなかった九州国立博物館での館外研究会を実施する予定である。九州国立博物館は、21世紀にできた国立博物館ということで、文化財環境の保全と省エネルギーの観点から建築設計がなされており、共同研究の目的である「環境への配慮が一層求められる21世紀の社会状況に適合する持続可能な資料管理および保存環境の基盤整備」と問題意識を同じくする。九州国立博物館においては、自然エネルギー(雨水、太陽熱、地熱)の利用、化学薬剤を用いない殺虫処理のための施設(大型冷凍庫、低酸素濃度殺虫装置)、建物の免震構造を視察し、資料の保存管理における施設整備と運営について議論する。

【館内研究員】 末森薫、日高真吾、平井京之介、吉田憲司、河村友佳子、橋本沙知
【館外研究員】 大関勝久、大森康宏、木川りか、佐藤嘉則、髙畑誠、鳥越俊行、馬場幸栄、森田恒之、山口孝子、和田浩、和髙智美
研究会
2022年8月23日(火)13:30~17:30(九州国立博物館)
九州国立博物館の施設見学:自然エネルギー(雨水、太陽熱、地熱)の利用、殺虫処理施設(大型冷凍庫、低酸素殺虫装置等)、建物の免震構造
施設見学にもとづく質疑応答およびディスカッション
成果報告書の進捗状況について
研究成果

2022年度は、2020年度および2021年度に予定していたが、新型コロナウイルス感染症の影響により延期されていた、九州国立博物館での館外研究会(2022年8 月23日)を実施した。九州国立博物館は、21世紀にできた国立博物館ということで、文化財環境の保全と省エネルギーの観点から建築設計されている。これはまさに、本共同研究の目的である「環境への配慮が一層求められる21世紀の社会状況に適合する持続可能な資料管理および保存環境の基盤整備」と問題意識を同じくするものである。九州国立博物館では、自然エネルギー(雨水、太陽熱、地熱)の利用、殺虫処理施設(大型冷凍庫、低酸素殺虫装置等)、建物の免震構造の説明を受け、それに基づいてディスカッションをおこなった。
共同研究の成果としては『持続可能な博物館資料の保存を考える』(SER155)(2022年)の刊行、新型コロナウイルス感染症対策に関する2本の論考の『国立民族学博物館研究報告』47(4)(2023年)への掲載があげられる。

2021年度

【館内研究員】 末森薫、日高真吾、平井京之介、吉田憲司、河村友佳子、橋本沙知
【館外研究員】 大関勝久、大森康宏、木川りか、佐藤嘉則、髙畑誠、鳥越俊行、馬場幸栄、森田恒之、山口孝子、和田浩、和髙智美
研究会
2022年2月10日(木)13:30~17:00(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
久保田俊彦(九州国立博物館)「九州国立博物館の施設紹介」
質疑応答
森田恒之(国立民族学博物館名誉教授)「臭化メチル燻蒸の導入(補遺)」
質疑応答
園田直子(国立民族学博物館)「研究成果のとりまとめについて」
研究成果

2021年度には、2020年度に計画していたが、新型コロナウイルス感染症拡大のため実現できなかった九州国立博物館での館外研究会を実施する予定であった。しかしながら、2021年度の開催もかなわなかったため、ウェブ開催の研究会とした。研究会では、文化財環境の保全と省エネルギーの観点から建築設計された九州国立博物館の事例報告をもとに、施設の維持・運営について保存の見地から質疑応答を行った。森田恒之名誉教授からは、日本の博物館における臭化メチル燻蒸導入の経緯について、文献資料と関係者へのヒアリングから得られた情報をもとに発表があり、戦後日本の博物館における虫害対策についての議論が深まった。研究のとりまとめとしては、共同研究員はそれぞれの専門と問題意識にたち、環境への配慮が一層求められる社会状況の中で21世紀の博物館に問われている持続可能な資料管理と保存環境の整備に関する現状を、具体的事例をもとに提示するとともに、そこから見えてきた可能性と課題を考察する。

2020年度

2018年度は、機関ごとに保存環境、保存対策、環境調査の実情について発表し、問題点を整理した。2019年度は、生物生息調査、温度湿度モニタリングなど、各機関に共通の課題をとりあげ、それぞれの機関での調査方法、データの解析法を議論した。2020年度は、博物館における自然エネルギー(雨水、太陽熱、地熱)の利用の事例について情報を収集する。同時に、大規模な博物館等の施設のみならず、設備、人手、経費が限られる施設や個人所蔵者でも応用・実践が可能な保存の条件や指針を提示すべく、研究成果をとりまとめる。
本館の文化資源計画事業「有形文化資源の保存・管理システム構築」(代表者:園田直子)と密接に連携してすすめる。文化資源計画事業で実施している調査や実験の結果を、共同研究の場で、評価し検証することで、研究全体を深める。また、人間文化研究機構・広領域連携型基幹研究プロジェクトの構成ユニット「日本列島における地域文化の再発見とその表象システムの構築」(2016-2021年度)(代表者:日高真吾)と連携し、小規模な博物館等の施設での実践事例を基にした検証をおこなう

【館内研究員】 末森薫、日高真吾、平井京之介、吉田憲司、河村友佳子、橋本沙知
【館外研究員】 大関勝久、大森康宏、木川りか、佐藤嘉則、髙畑誠、鳥越俊行、馬場幸栄、森田恒之、山口孝子、和田浩、和髙智美
研究会
2020年8月7日(金)13:30~17:00(ウェブ会議)
テーマ1:各館における新型コロナウィルス感染症対策
(文化財保存修復学会と共同開催。編集映像は学会HPで2020年10月12日から12月12日まで公開した)
日髙真吾(国立民族学博物館)「国立民族学博物館の展示場における新型コロナウィルス感染症対策」
和田浩(東京国立博物館)「新型コロナウィルス感染症対策――東京国立博物館の事例」
鳥越俊行(奈良国立博物館)「新型コロナウィルス感染症拡大予防対策に関する奈良国立博物館の取り組み」
木川りか・渡辺祐基(九州国立博物館)「九州国立博物館におけるコロナ感染症対策の概要」
山口孝子(東京都写真美術館)「新型コロナ感染拡大防止対策」
馬場幸栄(一橋大学)「一橋大学社会科学古典資料センターの新型コロナウィルス感染症拡大防止対策――貴重書閲覧室の場合」
テーマ2:共同研究の成果報告書について
2020年12月24日(木)13:30~17:00(ウェブ会議)
テーマ:生物被害対策
河村友佳子(国立民族学博物館)、佐藤嘉則(東京文化財研究所)、小峰幸夫(東京文化財研究所)「太陽熱を用いた高温処理の条件確立に向けて――アフリカヒラタキクイムシを用いた高温繰り返し実験について」
森田恒之(国立民族学博物館)「戦後の日本の博物館における虫害対策」
2021年3月12日(金)13:30~16:00(ウェブ会議)
テーマ1:小規模施設における資料管理
平井京之介(国立民族学博物館)「手作り資料館の持続不可能な資料管理――水俣の事例から」
馬場幸栄(一橋大学)「非博物館施設および個人宅における資料管理・環境整備の課題と対策――緯度観測所関連資料の事例から」
テーマ2:映像音響資料
園田直子(国立民族学博物館)「A-D Stripsを用いたフィルム調査――国立民族学博物館の事例からの考察」
研究成果

2020年度の研究会は、すべてウェブ開催とした。第1回研究会(8月7日)は「各館における新型コロナウィルス感染症対策」をテーマに、本館をはじめ、奈良国立博物館、九州国立博物館、東京国立博物館、東京都写真美術館、一橋大学社会科学古典資料センターの事例報告で構成した。この研究会は、本館と学術提携を結んでいる文化財保存修復学会との共同開催であり、編集映像は学会HPで公開した(2020年10月12日~12月12日)。第2回研究会(12月24日)では、東京文化財研究所と本館が進めている高温殺虫処理実験の結果をもとに、実践で使用するための条件精査を行うことを確認した。また、戦後日本の博物館における虫害対策について議論を進めた。第3回研究会(3月12日)では、小規模な施設が抱える問題をふたつの事例をもとに共有した。また、映画フィルムのビネガーシンドロームを取り上げ、本館で15年あまり進めてきた調査結果について考察した。なお、今年度は九州国立博物館での館外研究会を計画していたが、コロナ禍で実施できなかったため、2021年度に繰り越すことが承認された。

2019年度

昨年度は、機関ごとに保存環境、保存対策、環境調査の実情について発表し、問題点を整理してきた。本年度は、生物生息調査、温度湿度モニタリング、環境分析など、各機関に共通する課題をとりあげ、それぞれの機関においてどのように調査し、得られたデータをどのように解析しているのかを互いに議論することで、調査・分析手法の最適化と効率化をはかる。
また、本館の文化資源計画事業「有形文化資源の保存・管理システム構築」と密接に連携しながら、総合的有害生物管理(IPM)の考えかたに基づいた資料管理の基盤整備を進める。計画事業で進めている薬剤を用いない各種殺虫法の開発実験のうち、高温処理と、低酸素濃度環境下での資料保管、これらの調査・実験の結果を共同研究の場で総合的に評価、検証し、さらなる開発実験へとつなげる。

【館内研究員】 末森薫、日高真吾、平井京之介、吉田憲司、河村友佳子、橋本沙知
【館外研究員】 大関勝久、大森康宏、木川りか、佐藤嘉則、髙畑誠、鳥越俊行、馬場幸栄、森田恒之、山口孝子、和田浩、和髙智美
研究会
2019年7月19日(金)13:30~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
全員:各館における生物生息調査に関する調査・分析手法の検証ならびにディスカッション
2019年12月12日(木)13:30~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
(参加者全員)各館における温湿度に関する調査・分析手法の検証ならびにディスカッション
2020年2月6日(木)14:00~17:00(宮内庁正倉院事務所)
正倉(外観)・校倉、保存科学室の見学および資料保存に関するディスカッション
2020年2月7日(金)10:00~16:00(奈良国立博物館)
保存修理所の見学および資料保存に関するディスカッション
展示場見学
研究成果

第1回研究会では生物生息調査、第2回研究会は温度・湿度モニタリングという、各機関が共通して実施している予防保存活動を課題としてとりあげた。生物生息調査および温度・湿度モニタリングの調査方法と分析手法の最適化と効率化を目的に、それぞれの機関での調査方法およびデータの解析法を議論した。また、本館が実施している研究開発(高温殺虫処理、低酸素濃度環境下での資料保管)の進捗状況をもとに、結果の検証と評価をおこなった。第3回研究会(2020年2月6日、7日)では、宮内庁正倉院事務所および奈良国立博物館における資料保存について意見交換をおこなった。昨年度にひきつづき、共同研究員の所属先で館外研究会を開催することで、現場での実態調査をおこない、保存科学研究の遂行上、不可欠となる共通基盤の形成につとめた。

2018年度

本年度は、各機関の保存環境、保存対策、環境調査方法の実情についての発表をとおして、その現状を検証し、問題点を整理する作業をおこなうとともに、以下の二点の課題を進める。
モノ資料に関しては、総合的有害生物管理(IPM)の考えかたに基づいた資料管理の基盤整備に主眼を置く。とくに化学薬剤を用いない殺虫処理法に焦点をあて、低酸素濃度処理および二酸化炭素処理に関するこれまでの実験データをもとに、資料への影響がもっとも少なく、かつ殺虫効果が確実に得られる条件を精査し、その結果を検証する。
映像資料においては、大規模な博物館等の施設だけでなく、小規模な博物館等の施設や個人所蔵者における映像保存を視野にいれながら、映像資料の保存環境とともに、ビネガーシンドロームの調査方法について検討する。

【館内研究員】 末森薫、日高真吾、平井京之介、吉田憲司
【館外研究員】 大関勝久、大森康宏、木川りか、佐藤嘉則、髙畑誠、鳥越俊行、馬場幸栄、森田恒之、山口孝子、和田浩
研究会
2018年6月8日(金)10:30~17:00(国立民族学博物館 大演習室)
木川りか(九州国立博物館)「九州国立博物館における環境保全の取り組み」
和田浩(東京国立博物館)「東京国立博物館における環境保全の取り組み」(仮題)
鳥越俊行(奈良国立博物館)「奈良国立博物館における環境保全の取り組み」(仮題)
髙畑誠(宮内庁正倉院事務所)「正倉院宝物の保存管理」
ディスカッション
2018年12月6日(木)13:00~16:00(国立映画アーカイブ相模原分館)
映像資料の収蔵・保管方法の実態調査(収蔵庫見学)
ディスカッション
2018年12月7日(金)10:00~12:00(東京都写真美術館)
写真資料の収蔵・保管方法の実態調査(収蔵庫見学)
ディスカッション
2019年2月8日(金)13:30~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
<テーマ:災害対策>
日高真吾(国立民族学博物館)「国立民族学博物館における2018年6月の地震による被害と復旧の概要」
園田直子(国立民族学博物館)「国立民族学博物館における地震による収蔵庫の被害状況調査」
全員:ディスカッション
<テーマ:生物被害対策>
河村友佳子(国立民族学博物館)「高温処理実験の進捗状況」
橋本沙知(国立民族学博物館)「低酸素濃度環境での資料保存実験の進捗状況」
和高智美(合同会社文化創造巧芸)「生物生息調査の分析事例」
全員:ディスカッション
<テーマ:収蔵庫再編成>
末森薫(国立民族学博物館)「オランダにおける収蔵庫再編成の動向」
全員:来年度の活動に関するディスカッション
研究成果

第1回研究会では、九州国立博物館、東京国立博物館、奈良国立博物館、宮内庁正倉院事務所における保存環境、保存対策、環境調査の発表を受け、現状を検証し、問題点を整理する作業を行った。
第2回研究会では、国立映画アーカイブ相模原分館においては映像資料、東京都写真美術館においては写真資料、それぞれの収蔵・保管方法の実態調査を行った。これらの発表とそれにつづくディスカッションから、各機関に共通する課題(生物生息調査、温度湿度モニタリング、環境分析など)が明らかになった。来年度は、各種調査・分析手法の最適化と効率化をはかることを目指しており、そのための共通基盤が形成された。
第3回研究会では、6月の大阪府北部を震源とする地震をふまえ、博物館における防災・減災対策をたてるうえでの参考とすべく、本館の被害状況と対応について情報を共有した。また、本館の文化資源計画事業「有形文化資源の保存・管理システム構築」と連携して進めている研究開発(高温殺虫処理、低酸素濃度環境下での資料保管)の進捗状況をもとに、実験結果を評価、検証した。

2017年度

本研究は以下の分担で進め、園田が研究を総括する。
モノ資料に関しては、IPMの考えかたに基づいた資料管理の基盤整備に主眼を置く。とくに化学薬剤を用いない殺虫処理法に焦点をあて、資料への影響がもっとも少なく、かつ殺虫効果が確実に得られる条件を見出す。高温処理や低温処理などの温度処理の実用化を目指した条件設定を行うとともに、低酸素濃度処理および二酸化炭素処理の条件を精査し、改善する。本館の日高真吾准教授ほか、九州国立博物館の木川りか氏、宮内庁正倉院事務所の高畑誠氏、および2017年度文化資源計画事業「有形文化資源の保存・管理システム構築」(実施責任者:園田直子)に参加している文化資源共同研究員と協力のもと進める。研究の遂行においては、本館の殺虫処理施設を活用するとともに、大規模な設備に頼らない手法と条件もあわせて検討し、開発する。これらの評価は、本館の森田恒之名誉教授に協力を求める。
映像資料に関しては、欧米の基準でこれまで定められていた保存環境や保管条件について考察を進める。2017年4月10日~10月10日にかけて本館に招聘する外国人研究員(客員教授)、フランスの保存研究所所長・パリ自然史博物館教授のラヴェドリン氏の専門である写真保存の知識と経験を生かし、園田が平成29年度の初めから、映像資料の保存条件の調査を始める。また、東京都写真美術館の山口孝子氏、東京国立近代美術館フィルムセンターの大関勝久氏、一橋大学の馬場幸栄氏と協力のもと、大規模な博物館等の施設だけでなく、小規模な博物館等の施設や個人所蔵者における映像保存を視野にいれながら、映像資料の保存環境、さらにはフィルム開発を含む保存技術について検討する。これらの評価は、本館の大森康宏名誉教授に協力を求める。
上記研究に共通する項目として、小規模な博物館等の施設での実践事例の検証は、人間文化研究機構・広領域連携型基幹研究プロジェクトの構成ユニット「日本列島における地域文化の再発見とその表象システムの構築」(2016-2021年度)(代表者:日高真吾)と連携して進める。カビ等微生物対策は東京文化財研究所の佐藤嘉則氏、資料の科学的調査は奈良国立博物館の鳥越俊行氏、資料の光学的調査は関西大学の末森薫氏が担当する。
21世紀の社会状況のもとでの資料の保存と活用、その意義について、本館の吉田憲司教授、平井京之介教授、東京国立博物館の和田浩氏が考察を進める。

【館内研究員】 日高真吾、平井京之介、吉田憲司
【館外研究員】 大関勝久、大森康宏、木川りか、佐藤嘉則、末森薫、髙畑誠、鳥越俊行、馬場幸栄、森田恒之、山口孝子、和田浩
研究会
2017年10月7日(土)10:00~19:00(国立民族学博物館 第4セミナー室)
打ち合わせ
共同研究会の一環として人類基礎理論研究部・国際シンポジウム「変容する世界のなかでの文化遺産の保存」へ参加
意見交換
2017年10月8日(土)9:00~16:30(国立民族学博物館 第4セミナー室)
打ち合わせ
共同研究会の一環として人類基礎理論研究部・国際シンポジウム「変容する世界のなかでの文化遺産の保存」へ参加
2018年2月19日(月)10:30~17:00(国立民族学博物館 大演習室)
園田直子「共同研究の説明、問題提起」
河村友佳子「高温殺虫処理実験のこれまでの経過と課題」
橋本沙知「窒素封入によるアシ舟の保管の試み」
映像資料収蔵庫の見学
和髙智美「大型民族資料を対象とした第1収蔵庫再編成について」
日髙真吾「館内殺虫処理施設の説明」
研究成果

第1回研究会(2017年10月7日、8日)では、共同研究会の一環として、本館開催の学術潮流フォーラムⅠ 人類基礎理論研究部・国際シンポジウム「変容する世界のなかでの文化遺産の保存」において、研究会メンバーのうち本館の園田と日髙、東京国立近代美術館フィルムセンターの大関が発表をおこなった。シンポジウムでは、環境の変化は文化遺産保存のあらゆる側面において「持続可能である」ことを重要視する契機となったこと、媒体の変化は写真や映像というジャンルを超えて新たに「イメージ」という概念を生み出していることが提示され、21世紀における文化遺産の保存と活用について、企画に協力した本共同研究でさらに追究していくことを確認した。第2回研究会(2018年2月19日)では、国立民族学博物館で取り組んでいる化学薬剤を用いない殺虫(もしくは防虫)法の研究開発の現状と課題をとりあげるとともに、モノ資料および映像音響資料の収蔵庫、そして各種殺虫処理施設の見学と説明をおこなった。これは、今後、共同研究を進めるにあたって、まず各館での資料管理および環境整備の現状を理解することで、共通の基盤を形成することを目的としたものである。