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アフリカ資料の多言語双方向データベースの構築

研究期間:2017.4-2022.3 / 開発型プロジェクト(4年以内)

飯田卓

プロジェクトの概要

プロジェクトの目的

 サハラ以南アフリカ各国から収集された民博の資料約19,700点の情報をもとに、英語、フランス語、スワヒリ語、ポルトガル語などアフリカ諸国の公用語に対応した資料データベースを構築する。このデータベースには、アクセス権限を有するユーザーが書きこんだコメントを反映する機能も持たせるようにし、アフリカの研究機関の担当者をとおして個々の資料情報をさらに充実させるようにする。
こうしたデータベースを用いて国際シンポジウムや現地ワークショップなどの研究交流活動をおこない、あわせてアフリカの研究機関と民博が築きあげた学術提携関係を強固なものとすることで、物質文化を基盤としたアフリカ全般の文化状況とアイデンティティ構築の関わりについてあらたな知見を提出していくことが本プロジェクトの目的である。

プロジェクトの内容

 民博の館内で閲覧できる標本資料詳細情報データベースで検索してみると、サハラ以南アフリカ諸国のうちで資料収集点数が多いのは、カメルーン(2,597点)、ケニア(2,575点)、ザイール(現コンゴ民主共和国、1,768点)、セネガル(1,597点)、ナイジェリア(1,234点)、マリ(1,204点)、エチオピア(1,104点)、スーダン(1,073点)、ガーナ(940点)、ボツワナ(627点)などである。そのうち半数は、館員OBが継続的なフィールドワークをおこなうなかで資料収集をした場所である。言いかえれば、創立から40年を経た現在、現役館員には資料収集の状況がわからなくなっている。これは、5名ていどの少人数で大陸全域の研究を担当しなければならない以上、避けられないことである。しかしいっぽうでは、OB世代が築いた研究ネットワークを、現役館員が意識的に継承していかなければならないということをも示している。
民博のアフリカ研究ネットワークは、平成17(2005)年度から平成20(2008)年度にかけて日本学術振興会とともに実施したアジア・アフリカ学術基盤形成事業「アフリカにおける文化遺産の危機と継承――記憶の保存と歴史の創出」によってかなり強固なものとなったが、現役館員のコネクションすべてがこのネットワークに統合されたわけではなく、館員OBのコネクションもじゅうぶんにくみ入れられていない。また、事業から10年が経ち、相手側で人事異動があったり日本側に新しいメンバーが参入したりしたことを考えれば、ネットワークのさらなる拡大・強化が求められているといえる。
このような状態にある民博アフリカ展示プロジェクトチームにとって、民博が現有する資料を多言語かつ双方向的なデータベースとして統合するというフォーラム型情報ミュージアム・プロジェクトは、かならずしも容易に達成できる事業ではない。しかし、ネットワークの拡大・強化とデータベース構築を同調させつつ進めていけば、今後の事業展開はより容易になると期待できる。本プロジェクトの第一の目標はデータベース構築にあるものの、そのために必要なネットワークの拡大・強化を適宜計画に加えていくことで、将来的なデータベースの拡大・強化とネットワークの拡大・強化のための基盤整備をはかることができる。
こうした認識に立って、すべての年度においてデータベース構築とネットワーク構築の双方を進めていく計画である。その詳細は、5-3.および5-4.で述べていく。

期待される成果

 初年度末に初期的なデータベース構築をおこない、日本語のほか英語、フランス語、スワヒリ語、ポルトガル語など、アフリカ諸国の公用語に対応したコメント反映機能を有するデータベース(多言語データベース)の試験的運用を開始する。これは、インターネットをとおして公開するものではなく、数名から十数名の研究者がコミュニケーション基盤として用いるものである。項目の見出しと標本資料名は、少なくともこの5言語で参照できるようにし、アフリカに拠点を置く研究者が閲覧できるとともに、必要に応じて資料情報を記入できるようにする。
第2年度と第3年度には複数の国(各年度2ヶ国を予定)でワークショップを開催してデータベースを試用してもらい、同時に資料に関する情報を付加してもらう。このときに付加してもらった詳細な情報を利用して、最終年度(第4年度)にワークショップ開催国ごとに小規模の公開用データベースを構築・公開する。小規模なデータベースは多言語でなく1言語(もしくは日本語を含めた1言語)となる可能性があるが、現地のコンテクストをふまえた詳細なデータベース(詳細データベース)ができあがる予定である。
このほかに、最終年度に日本で国際シンポジウムを開催し、物質文化を基盤としたアフリカ全般の文化状況とアイデンティティ構築の関わりについて議論する。その成果は、SESないしSERのかたちで刊行する予定である。
ネットワーク構築の成果としては、メンバー個々のネットワークが集合的に継承できるようになるほか、若手の研究人脈を拡大することができる。最終年度の国際シンポジウムを学術交流協定にもとづいておこなうことも可能である。

成果報告

2020年度成果

1. 今年度の研究実施状況

 プロジェクトメンバーのあいだですでに活用されている暫定版データベース(日本語および英語、レコード数908,644)の精査をおこなった。また、この作業と並行するかたちでフランス語およびポルトガル語のデータを作成した。これらの作業は、2021年5月末までに完了する。完成すれば、レコード件数が倍加し、1,817,288レコードとなる見込みである。現在は関係者のあいだでの限定公開の状態だが、上記の期日以降にデータの登録と館内公開をとおしたチェックをおこない、9月末日には一般のインターネットユーザーがアクセスできるようになる。
今年度は、新型コロナウィルス感染症の影響が大きかったため、暫定版データベースを用いておこなう予定だった国際ワークショップなどをおこなうことができなかった。本プロジェクトは、本来は2021年3月で終了する予定だったが、特例措置により2021年度4月以降に経費を繰り越して使用することが認められたため、新型コロナウィルス感染症が終息すれば、4言語を搭載した完成形のデータベースを駆使してワークショップをおこなうことが可能となる。
完成形のデータベースには、標本資料に関するローカルな情報を効果的に蓄積するための「記憶ファイリング領域」をあらたに設け、民博と現地研究者、さらには民博とソースコミュニティが円滑なコミュニケーションを図れるようにした。

2. 研究成果の概要(研究目的の達成)

 データベースの精査が年度内に完了しなかったことは反省点である。すみやかに精査を完了し、フランス語およびポルトガル語のデータも完成させたうえで、2021年9月末までに完全なオープンアクセスの状態でデータベースを使用できるようにする。
国際ワークショップなども、新型コロナウィルス感染症の影響のために開催できなかった。しかし、前年度までに連絡をとり合ったカメルーンおよびケニアの研究者とは電子メールをつうじて連絡をとり合っており、感染症が終息すればただちに計画を再開する準備が整っている。2020年度内に執行できなかった経費を2021年度に繰り越して執行することが認められたため、感染症の心配がなければ完成形のデータベースを使って国際ワークショップを開催し、現地の研究者やソースコミュニティとの協働をおこなえる予定である。

3. 成果の公表実績(出版、公開シンポジウム、学会分科会、電子媒体など)

・鈴木英明, 2020, 『解放しない人びと、解放されない人びと 奴隷廃止の世界史』東京大学出版会、2020年10月30 日、320頁、ISBN: 978-4-13-025172-3
・川瀬慈, 2020, 『エチオピア高原の吟遊詩人 うたに生きる者たち』音楽之友社、2020年10月29日、252頁、ISBN: 9784276135710
・Iida, Taku. “Making Museum Objects Revive in Human Societies: An Experience of an Image-Sharing Project between Africa and East Asia” Serial Academic Webinars of Minpaku Special Research Project “Cultural Transmission against Collective Amnesia: Bodies and Things in Heritage Practices”、主催・会場:国立民族学博物館(オンライン)、2021年2月27日
・Iida, Taku. “Re-embedding Museum Objects into Local Communicative Networks” ACHS Fifth Biennial Conference 2020, 主催:Association of Critical Heritage Studies、場所:University College London, London, UK (オンライン)、2020年8月26日
・Iida, Taku/Abiti Adebo Nelson/Thomas Laely/Kiyoshi Umeya/Jacqueline Grigo/Ryo Nakamura/Keiya Hanabuchi/Katsuhiko Keida. “Local Values of Heritage in Africa: Swinging between the Universal and Local, as Well as the Tangible and Intangible” ACHS Fifth Biennial Conference 2020, 主催:Association of Critical Heritage Studies、場所:University College London, London, UK(オンライン)、2020年8月26日
・Hideaki Suzuki. “The Rise of Nosy Be: Conjunction between Indian Ocean network and imperial expansion” A Statistical Study of Indian Ocean Trade: Towards a Reappraisal of Regional Trade in Modern World History、主催・場所:総合地球環境学研究所(オンライン)2020年10月30日

2019年度成果

1. 今年度の研究実施状況

 昨年度に構築された英語-日本語データベースを駆使して、以下の作業を継続して実施した。
1. 英語および日本語による標本名、地名、民族名の見なおし
2. 英語および日本語による収集者名の公開可否の精査(プライヴァシーの尊重など)
3. フランス語その他の言語での表示項目の準備
4. 英語またはフランス語による詳細情報の付加
1. ~3,に関してはもっぱら飯田が検討を進めた。以上は、本プロジェクトに関する本年度(令和元年度)のエントリーシートに記した「データベース構築」に関する作業であり、ほぼ計画どおりに遂行することができた。
4,もまた、エントリーシートの「データベース構築」に関連するものではある。しかし、フォーラム型情報プロジェクトの趣旨に照らして、この作業は本館館員とソースコミュニティ(本プロジェクトの場合はアフリカ)の人びとと協力しておこなうのがよい。このため本年度は、この分野を直接に進めるよりも本プロジェクトのもうひとつの柱である「ネットワーク構築」を進めることによって、4.に述べた情報付加の準備を整え、間接的な進展をはかった。
具体的には、作業がもっとも進んでいるカメルーン資料の今後の整理作業を検討するため、8月30日から9月1日にかけてワークショップ「Reactivation of African Ethnographic Objects in Japan」を開催した。これは、エントリー書類に述べられている「民族誌的情報の精緻化」に相当する。参加者の所属機関は、カメルーン国立大学とヤウンデ第一大学およびマルア大学である。ワークショップでは、カメルーン側の協力者が収集してきたデータを整理し、データベースに反映できるよう表計算ソフトに入力したほか、今後の作業の段取りを話しあった。また、カメルーン資料ほどには整理が進んでいないケニア資料の整理を進めるため、ケニア国立博物館群に所属する協力者にも参加してもらい、今後の協力関係を話しあった。両国の参加者はさらに、自国の本務にさしつかえない範囲において、9月2日から10日にかけて京都その他の場所で開催されたICOM(国際博物館会議)大会に参加した。これにより、自国の文化行政事情に制約されない国際的な博物館事情を共有し、本プロジェクトの意義と展望をさらに深める話しあいをおこなった。
以上のほかに、プロジェクトメンバーの鈴木がケニアに渡航して学術交流協定を結び、今後の共同調査の基礎を整えた。同じく飯田はマダガスカルに、池谷はボツワナに渡航し、じっさいのデータベース共有についての具体的な打ち合わせをおこなった。

2. 研究成果の概要(研究目的の達成)

 1.~3.については、年度末に近づいた現在も作業を継続中である。プロジェクト最終年度にあたる令和2年度後半までに作業を完了し、現在の暫定的データベースをバージョンアップして公開用データベースとする予定である。
4.については、詳細情報の項目をワークショップで討議する過程で、次のような案が提案された。すなわち、公開用データベースに非公開の領域を設け、各インフォーマントが有するモノ(標本資料)についての記憶を長期的に付加していく案である。この案にしたがえば、ひとつの標本資料に対して聞きとりをおこなった場合、インフォーマントと同じ数の「記憶カード」が生成され、研究協力者間で共有できるようになる。本プロジェクトが終了し、公開用データベースの運用が始まってからは、この「記憶カード蓄積機能」を活用することで、プロジェクト期間内に着手できなかった計画を(別途資金によって)展開させることが可能となった。

3. 成果の公表実績(出版、公開シンポジウム、学会分科会、電子媒体など)

◇学会口頭発表 飯田卓「くらしのなかの文化遺産――物質文化研究と博物館活動、そして文化継承支援を統合する試み」日本アフリカ学会第56回学術大会(2019年5月19日、京都精華大学、京都)
◇学会口頭発表 飯田卓「国立民族学博物館のアフリカ研究」TICAD7パートナー事業シンポジウム「日本のアフリカ研究を総攬する」(2019年7月13日、上智大学四谷キャンパス、東京)

2018年度成果

1. 今年度の研究実施状況

 サハラ以南アフリカ各国から収集された民博所蔵の資料の情報を整理し、日本語と英語で読めるようなテスト版データベースを制作した。資料の点数は、今年度初めの時点では20,737点としていたが、重複などが後から判明したため、最終的に20,651点になった。このデータベースは、インターネットを通じて、パスワードを知る関係者だけが見られる状態になっている。
ケニアでは、このデータベースを提示して、今後の調査協力について話しあいを進めることができた。1月には、カメルーンから複数の研究者を民博に招いてワークショップを開催し、主としてこのデータベースを閲覧しながら、カメルーンの研究者やソースコミュニティの人びとと民博の資料を活用していく話しあいを進める予定である。また2月にも、エチオピアやボツワナの資料について研究を進めていくと同時に、資料についての理解を深めてもらうための活動をどのように展開していくべきか、現地の研究者とともに討論する計画である。
今年度の前半には、地震やメールサーバーのトラブルなどのために、民博全体の情報関係業務が予期せぬかたちで集中し、それにともなってデータベースの構築が若干遅れることとなった。しかし、完成したデータベースを用いて、年度後半には予定どおり研究交流が活発化しており、来年度はこの分野での活動をさらに加速させる予定である。

2. 研究成果の概要(研究目的の達成)

 データベースが完成したことにより、アフリカに関わる日本の民族誌博物館のコレクション状況が一目瞭然で理解できるようになった。折りしも、フランスのマクロン大統領はアフリカの旧植民地各国に対してフランスの博物館所蔵品の一部を返還する方針を決定しており、博物館の動向は大きく注目を浴びている。民博に所属するアフリカ関係の研究者は、すぐに返還が必要だとは感じていないものの、議論を始めていくためにデータベースを徐々に公開していくことは重要であり、研究プロジェクトにおける位置づけもますます重くなっていくと予測できる。
完成したデータベースの内容は、標本資料名の表記や収集者名のプライバシー保護などに関して、いっそうの改善の余地を残している。今後はこうした点に問題がないよう完全なチェックを済ませるとともに、フランス語やポルトガル語、スワヒリ語などでも利用できるようデータベースを多言語化していく作業が残されている。

3. 成果の公表実績(出版、公開シンポジウム、学会分科会、電子媒体など)

(学会口頭発表)飯田卓「地理的束縛からの脱出――アフリカニストとアフリカ人のための博物館をめざして」日本アフリカ学会第55回学術大会(2018年5月27日、北海道大学、札幌)

2017年度成果

1. 今年度の研究実施状況

 本プロジェクトで対象とするのは、民博が収蔵しているサハラ以南アフリカ資料20,737点である。現在日本語で読めるようになっているデータベースから、これらの資料に関するレコードをすべて抽出し、一定の方針のもとに日本語資料名を付与しなおして、英語訳をおこなった。これをもとに、来年度のはじめ頃には、新名称を含む日本語データベースと最低限の情報を反映させた英語データベースを構築する。民博の標本資料に関する研究のプラットフォームとしてそれを利用し、次年度以降に研究を展開していくことができる。
本年度はまた、次年度以降の研究展開のための準備として、ガーナ(飯田、吉田)、ベナン(飯田)、カメルーン(飯田、戸田)、エチオピア(飯田、川瀬)の4ヶ国で研究者交流をおこない、今後の共同研究の可能性について議論した。その結果、標本資料に関する共同研究のみならず、民博のアーカイブズ資料に含まれる江口名誉教授が録音した音声資料や、文化現象全般に関する映像など、民博が有する多様な学術資源についての共同研究が提案された。

2. 研究成果の概要(研究目的の達成)

 日本語資料名を精査し英語資料名を確定できたことは、今年度の大きな成果である。これをもとにして、最低限の情報を反映させた英語データベースを構築し、日本語話者以外のアフリカ研究者と共有することが可能になる。本来ならば、フランス語などの他の言語についても翻訳を済ませたかったが、英語データベースだけでも館外の研究者と共有したうえでそれを活用した共同研究をおこない、同時進行するかたちで他の言語への翻訳作業を進めたほうが効果的に成果をあげられると判断した。

3. 成果の公表実績(出版、公開シンポジウム、学会分科会、電子媒体など)

とくになし