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国立民族学博物館所蔵の北方デネー(北方アサバスカン)関連資料の活用に関する研究

研究期間:2024.10-2027.3

代表者 井上敏昭

キーワード

博物館収蔵品、北方デネー(アサバスカン)、亜極北アメリカ、先住民権

目的

この共同研究は第一に、北方デネー社会での現地調査の経験を有する研究者が、国立民族学博物館所蔵のRobert McKennanが1930年代に収集した物質文化資料16点及びその他デネー社会由来と目される資料26点(暫定数)を多角的に検討することで、ソースコミュニティの特定や資料情報の精緻化など同資料に関する知見を高めることを目指す。第二に、北方デネー社会に限定せず、北極域や日本の北方地域あるいは米加両国において考古学や先住民の物質文化に係わる先住民の権利や法的問題に関する研究に携わっている諸学の研究者にも議論への参加を要請し、先住民由来の物質文化資料あるいは先住民の伝統的生活圏内から出土した考古学遺物に関して、いかなる議論や先住民からの異議申し立て、それに応答する法整備が成されているか、そこにいかなる問題が所在するかを把握し、将来的に広く先住民ソースコミュニティが日本の博物館資料を活用するうえで必要な知見を得ることを目的とする。

2025年度

2025年度は4回の研究会を開催し、博物館や研究機関が所蔵する先住民由来の物質文化資料や先住民の生活圏内から出土した考古学遺物に関してどのような問題が生じそれに対してどのような対応がなされているか、現代の先住民社会が物質文化の伝統をどのように伝承に関しているかについて、各共同研究員が事例や研究の成果を発表していく。これらの比較をとおして、先住民社会のニーズや研究者側の対応の多様性と共通性について全員で検討する。また文化伝統継承を実践する北方デネー社会成員や北方デネー社会での資料収集の経緯などに知見を有する海外の研究者をゲスト・スピーカーとして招いて対面またはオンラインのかたちで特別講義を行ってもらい、知見の蓄積・視点の多角化を図る。国立民族学博物館所蔵の北方デネー資料については、前年度に引き続き熟覧および写真撮影、資料受入時の記録等に関する調査を進めていく。

【館内研究員】 伊藤敦規、齋藤玲子、野口泰弥
【館外研究員】 岸上伸啓、山口未花子、水谷裕佳、平澤悠、立川陽仁、久郷洋子、生田博子、大坂拓、是澤櫻子、加賀田直子、榎本歩美


2024年度

2024年度は国立民族学博物館での研究会を2回実施する。初回は研究代表者による趣旨説明および共同研究員による研究業績や本共同研究への展望についての意見交換を行う。同年度の2回目以降は、共同研究員が北方地域先住民の物質文化あるいはそれらの博物館資料に対する先住民ソースコミュニティの要求やそれに応答する法的整備などについて研究発表を順次行いそれに基づく討論を行う。研究会は1回につき1日半の予定で行い、毎回3~4名の発表を行うことを基本とする。研究会への参加は対面を基本とし、海外在住の研究者についてはオンライン形式での参加を併用する。また研究会の実施と合わせて国立民族学博物館所蔵の北方デネー物質文化資料の特徴や状態を把握するため当該資料の熟覧を行う。

【館内研究員】 伊藤敦規、齋藤玲子、野口泰弥
【館外研究員】 岸上伸啓、山口未花子、水谷裕佳、平澤悠、立川陽仁、久郷洋子、生田博子、大坂拓、是澤櫻子、加賀田直子、榎本歩美
研究会
2024年12月1日(日)10:00~18:00(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
井上敏昭(城西国際大学)「本共同研究の趣旨説明」
久郷洋子(アラスカ大学フェアバンクス校:オンライン参加)「研究業績の紹介・本共同研究での寄与できる内容の発表」
「アイヌ工芸inみんぱく」見学
伊藤敦規(国立民族学博物館)、生田博子(九州大学)、加賀田直子(北海道大学:オンライン参加)、岸上伸啓(国立民族学博物館)、是澤櫻子(国立アイヌ民族博物館)、榎本歩美(北海道大学:オンライン参加):「研究業績の紹介・本共同研究での寄与できる内容の発表」
齋藤玲子(国立民族学博物館)、立川陽仁(三重大学)、野口泰弥(国立民族学博物館)、平澤悠(東亜大学)、水谷裕佳(上智大学)、山口未花子(北海道大学)、大坂拓(北海道博物館:オンライン参加):「研究業績の紹介・本共同研究での寄与できる内容の発表」
全員:「本研究の分担・進め方の確認」
井上敏昭(城西国際大学):「今後の予定」
2024年12月2日(月)10:00~12:00(国立民族学博物館 展示準備室 ウェブ開催併用)
国立民族学博物館収蔵の北方デネー資料の熟覧
2025年3月9日(日)10:30~16:30(国立民族学博物館 第3演習室 ウェブ開催併用)
伊藤敦規(国立民族学博物館)「人類学博物館が継承すべき対象とその継承方法――ものと来歴の記録から人々のプレゼンスへ」
国立民族学博物館の北方地域、アメリカ大陸関連の展示見学
齋藤玲子(国立民族学博物館)「民博所蔵の北方先住民資料の来歴について ―東京大学理学部人類学教室および日本民族学会附属民族学博物館の旧蔵資料を中心に―」
全員:「総合討論」「今後の予定の確認」
研究成果

2024年度は2回の研究会を開催した。第1回ではメンバーがそれぞれこれまでの研究の概要を報告しあうことで、先住民の物質文化や博物館資料に関する問題の所在を確認し論点を整理することができた。また民博が所蔵する北方デネー社会由来資料の熟覧も実施した。第2回では伊藤が、北米人類学博物館の先住民資料デジタルアーカイブの動向とそれを踏まえた「再会プロジェクト」の実践の報告から、従来の民族誌資料情報の偏りを是正するにはソースコミュニティの人々のプレゼンスを高めてIndigenizationやdecolonizationを推進する努力が必要なことを指摘し、フォーラム型情報ミュージアムの試みが単なる多言語資料目録化に陥らないようにすることなどに資する「再会学」、「再会誌」という概念を提示した。齋藤は、民博に移管された先住民資料の来歴と問題点について論じ、先住民社会からの要請に対応するためには来歴データの調査・公開と博物館での専門担当者の配置が必要であり、そこにおいては文化当事者の参加が重要であることを指摘した。総合討論ではソースコミュニティ成員のうちだれが代表性を持つかにおいて問題が生じることや、収集者/学問領域の視点のみでなされてきた資料情報管理の問題点も指摘された。