伊藤敦規准教授が第10回(2020年度)「地域研究コンソーシアム賞 研究企画賞」を受賞
受賞年度 | 2020年度 |
---|---|
受賞者 | 伊藤敦規 |
伊藤敦規准教授が第10回(2020年度)「地域研究コンソーシアム賞 研究企画賞」を受賞
2021年1月13日掲載
この度、本館学術資源研究開発センター准教授 伊藤敦規が代表を務める国際協働研究「ソースコミュニティと博物館資料との「再会」プロジェクト」が、第10回(2020年度)「地域研究コンソーシアム賞 研究企画賞部門」を受賞しました。
○ 「地域研究コンソーシアム」について(同組織ホームページより抜粋)
地域研究コンソーシアムは、世界諸地域の研究に関わる研究組織、教育組織、学会、そして地域研究と密接に関わる民間組織などからなる、新しい型の組織連携です。2004年4月、これまで、多くの大学や研究機関などに散らばっていた地域研究の組織や研究者の団体をつなぎ、組織の枠を超えた情報交換や研究活動を進めるために発足しました。2020年8月現在、104の組織が加盟する、地域研究のアカデミック・コミュニティです。
○ 「地域研究コンソーシアム賞」について(同組織ホームページより抜粋)
地域研究コンソーシアム(JCAS)は、その規約において「国家や地域を横断する学際的な地域研究を推進するとともに、 その基盤としての地域研究関連諸組織を連携する研究実施・支援体制を構築することを目的とする。これにより、人文・社会科学系および自然科学系の諸学問を統合する新たな知の営みとしての地域研究のさらなる進展を図る」と述べ、それに続いて1) 共同研究の企画・実施・支援、2) 海外研究拠点の設置運営と国際的な共同研究・臨地研究の企画・実施、3) 研究成果の国内外への発信・出版、4) 地域研究情報の相互活用・共有化と公開という具体的目標を掲げています。
地域研究コンソーシアム賞は、上記の目標を達成する上で大きな貢献のあった研究業績ならびに社会連携活動を広く顕彰することを目的として授与されます。
○ 研究企画賞 審査結果と講評(JCAS賞2020審査結果より抜粋)
本プロジェクトは国立民族学博物館の国際協働研究事業に基づくもので、博物館の民族誌資料にソースコミュニティの記憶と経験を反映させるという、極めて意欲的かつ興味深い取組である。アーカイヴ化された資料を、調査のなされたソースコミュニティと「再会」させる試みは、単なる博物館のプロジェクトを超えて、民族学的資料として祖先らの記憶を「現在化」させる実践であり、極めて先端的な取組として高く評価される。
ある「もの」が民族誌資料として登録される場合、従来は文化的他者による「科学的」 分類が行われ、そのものの物質的特徴と来歴を中心とする情報が付される傾向にあった。しかるに、国立民族学博物館は2014年、資料一点一点のドキュメンテーションに、収蔵機関の担当者のみならず他機関の専門家の知見とソースコミュニティの人々の記憶や経験に基づく見解を反映(フォーラム化)させるとともに、その記録をデジタルアーカイヴとして可視化して次世代への共有を目指す国際協働研究「フォーラム型情報ミュージアム」に着手する。
本プロジェクトはこの国際協同研究の一環であり、2019 年度までに日米英の14機関と個人コレクターが所蔵する約2500点の資料をソースコミュニティと「再会」させた。そこでは、熟覧者として参加した人口約 12,000 人の米国先住民ホピ22 名が地元の文化的なルールに則った分類や名称で資料を再整理するとともに、収蔵機関に対して既存情報の正誤を指摘し、保管方法や公開範囲に関する要望を述べる一方、身振りや抑揚といった個性をともない、使用や制作といった個人の経験に左右される「もの語り」700 時間近くをビデオカメラの前で披露したのである。この映像記録は、人類学・博物学における学術的な重要性をはるかに超えて、人類にとって圧倒的に貴重な試みと言ってよい。
ソースコミュニティの人々と博物館収蔵資料とを「再会」させる試み自体は、米国先住民に出自を持つ博物館研究者によって発案されたが、世界を見わたしても、ソースコミュニティの人々による自文化の語りという意味での「再会」を、この規模のデジタル映像アーカイヴとしてまとめ上げた前例は存在しない。加えて、「もの語り」のテキストは「ソースコミュニティと博物館資料との『再会』シリーズ」として出版され、ソースコミュニティの人々をはじめとする関係者との間で共有が図られてきた。本プロジェクトの成果はさらに、展示会での活用実績もあり(※註)、ソースコミュニティにおける伝統文化の復興教室に活用されるなど、効果はすでに多方面に及んでいる。子孫らを熟覧者に、自文化を「もの語り」するデータとそこで示された方法は、今後他館の指針ともなるだろう。
このように本プロジェクトは、博物館研究・デジタル技術と地域研究を結びつける実践として意義深く、新たな博物館のあり方等にも影響を与えており、地域や先住民族の「伝統」の復興・創生にも資する試み、人類学博物館を舞台とする地域研究の展開の好事例として、研究企画賞に値すると評価できる。
※註 展示会での活用実績(4件)
- 国立民族学博物館特別展(『太陽の塔からみんぱくへ――70年万博収集資料』、会場:国立民族学博物館特別展示場、会期:2018年3月8日~5月29日。
- 天理大学附属天理参考館企画展(『大自然への敬意――北米先住民の伝統文化』、会場:天理大学附属天理参考館2階企画展示室、会期:2018年4月4日~6月4日。
- 米国ニューメキシコ州立大学附属博物館企画展(Living in Sacred Continuum)、会場:American Indian Student Center of the New Mexico State University、会期:2019年4月26日~12月15日。
- 国立民族学博物館常設展、会場:国立民族学博物館2階多機能端末室、会期:2020年3月26日設置、2020年10月11日から2021年1月5日まで公開。
○ 審査対象となった研究活動業績(10件)
①伊藤敦規監修<デジタル映像アーカイブ>
2020『ソースコミュニティと博物館資料との「再会」(RECONNECTING Source Communities with Museum Collections)』
②Atsunori Ito (ed.)<特集論文>
2020 “
③伊藤敦規<単著論文>
2020 「共有されるアートをめぐる記憶」『art/(民族藝術学会誌リニューアル創刊号)』1:70-73. (2020年3月31日刊行)
④伊藤敦規、キャシー・ドーハーティ、ケレイ・ハイズ=ギルピン編<日英熟覧記録>
2020『北アリゾナ博物館収蔵446点の「ホピ製」銀細工および関連資料熟覧――ソースコミュニティと博物館資料との「再会」4』(国立民族学博物館フォーラム型情報ミュージアム資料集4)、2,251ページ. (2020年3月23日刊行)
⑤伊藤敦規編<日英熟覧記録>
2020『国立民族学博物館収蔵186点の「ホピ製」資料熟覧――ソースコミュニティと博物館資料との「再会」3』(国立民族学博物館フォーラム型情報ミュージアム資料集3)、853ページ. (2020年2月3日刊行)
⑥伊藤敦規編<日英熟覧記録>
2019『天理大学附属天理参考館収蔵24点の「ホピ製」資料熟覧――ソースコミュニティと博物館資料との「再会」2』(国立民族学博物館フォーラム型情報ミュージアム資料集2)、219ページ. (2019年3月28日刊行)
⑦伊藤敦規<学会発表>
2019「民族誌資料のデジタルアーカイブ化にかかる諸問題」『第3回デジタルアーカイ ブ学会研究大会』、京都大学吉田キャンパス総合研究8号館. (2019年3月16日発表)
⑧伊藤敦規<単著論文>
2019「民族誌資料のデジタルアーカイブ化にかかる諸問題」『デジタルアーカイブ学会誌』3(2):91-94. (2019年3月15日刊行)
⑨伊藤敦規<シンポジウム配付資料>
2018「ソースコミュニティと博物館資料との『再会』」国立民族学博物館国際シンポジウム『ミュージアムの未来――人類学的パースペクティブ』、グランフロント大阪 北館4階ナレッジシアター. (2018年9月28日開催・配付)
⑩伊藤敦規編<日英熟覧記録>
2017『国立民族学博物館収蔵「ホピ製」木彫人形資料熟覧――ソースコミュニティと博物館資料との「再会」1』(国立民族学博物館調査報告140)、1,371ページ. (2017年3月13日刊行)