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2022年 年頭のあいさつ

皆さん、あけましておめでとうございます。

今年の元旦、日本海側は豪雪に見舞われる一方、太平洋側では朝、うっすらと雪化粧をした場所もあったかと思いますが、日中は晴天に恵まれまたところが多かったようです。皆さん、穏やかな新年をお迎えになったでしょうか。

この写真ですが、毎年、年の初めには、前の年の海外でのフィールドワークの写真を選んで来たんですが、昨年は、新型コロナウイルス感染症の拡大で、私自身、海外へは全く出かけることができませんでした。それで、今年は寅年ということで、古い写真から虎の写真、といっても私自身は虎の生息地に足を踏み入れたことがないので、せめてネコ科大型動物の写真を探してみたのですが、これは、ザンビアのサウス・ルアングワ国立公園の森の中で出合ったヒョウの姿です。ずいぶんとゆったりとくつろいでいました。

こちらは、同じ国立公園の中ですれ違ったライオンの家族。ずいぶん昔。2009年7月に撮った写真です。
ライオンは百獣の王といわれますが、虎は、中国で百獣の王とされ、「一日にして千里を行き、千里を帰る」といわれるように動きや威勢の象徴とされてきました。そこから、十二支の中にとりこまれて、虎の刻が朝4時ごろ、「動き始める者」の意味を帯びたといいます。今年が、私たちにとっても、コロナ禍を克服し、改めて動き始める年になればと願っています。

昨年2021年は、なんといっても、新型コロナウイルス感染症への対応に追われた一年でした。海外でのフィールドワークについては、文字通り手も足も出ないという状況が続き、海外からの研究者の招へいも大きな制約を受けましたが、こと研究会活動に関しては、共同研究・特別研究そしてフォーラム型情報ミュージアムのプロジェクトともに、on-lineも活用し、海外から参加する研究者の所在地に合わせて柔軟に時間帯を設定して、シリーズ化したウェビナーを開催するなど、それぞれに知恵を絞って活発な研究活動を続けていただきました。

また、展示の分野では、そのコロナ禍の中でも、特別展「復興を支える地域の文化―3.11から10年」と「ユニバーサル・ミュージアム ―― さわる!“触”の大博覧会」をはじめ企画展や巡回展も予定通り開催することができました。

特別展「復興を支える地域の文化―3.11から10年」は、緊急事態宣言の発出のため、会期を大幅に短縮せざるを得なくなりましたが、あの3.11東日本大震災からちょうど10年の節目に、災害からの復興に焦点を当てた特別展を開催できたことは、日本の社会全体に対しても大きな意義をもつ展覧会だったと思います。

また、「ユニバーサル・ミュージアム ―― さわる!“触”の大博覧会」は、図らずも、新型コロナウイルス感染症の地球規模での流行のもと、人と人との直接の「触れあい」が敬遠されるなかで、開催されることとなりました。この状況のもとで、「触」に焦点を当てた展示を開くというのは、この特別展の挑戦の意義と重みをいやがおうにも増すとともに、開催する私どもの責任をより大きくするものと自覚をしておりました。

幸い、期間中、特別展を発生源とする感染の報告はなく、胸をなでおろしましたが、結果として、この特別展は、視覚偏重の博物館・美術館という装置、さらには今私たちが生きているこの現代の世界における、視覚偏重の認知のあり方を見つめなおし、触覚を含めたより多様な認知のあり方を気づかせてくれる、画期的な機会となったのではないかと思います。

また、この特別展には、その趣旨に共感・賛同して、多くのアーティストの皆さんが参加してくださいました。その結果、この特別展は、既成の価値観や認識の枠組みを超えて、現代における芸術の可能性、あるいはアートと人類学の協働の可能性を探る試みにもなりました。

この一年、民博で一緒に働いていただいたみなさんの、忍耐とご尽力には、「感謝」の言葉しかありません。本当に有り難うございました。

民博の施設に関しては、新型コロナウイルス感染症対策の一環として管理部の事務室はもちろん、セミナー室や演習室を安心して使っていただけるよう、本館全体の換気設備の改修・強化することができました。
また、講堂を含め、セミナー室・演習室での集会をライブ中継できるよう、高精度カメラの設置やオンライン環境の整備を進めました。

民博としては、今も在宅勤務は可能な限り継続することを皆さんにお願いしていますが、在宅で民博のさまざまな館内用のサイトにアクセスできるVPN 接続のシステムを整備しました。こうした措置により、ポスト・コロナの時代、といってもコロナウイルスがいなくなることはないでしょうから、私はこの言葉を我々がコロナ禍を体験して以降の時代という意味で使っていますが、昨年には、そのポスト・コロナの時代に対応できる設備・システムを構築できたと考えています。

さて、今年は、民博、そして、民博だけでなく、総研大を含む、日本の国立大学、大学共同利用機関すべてにとって、大きな節目の時期を迎えます。ご承知のように、日本の国立大学・大学共同利用機関は、6年の中期目標・中期計画期間をサイクルに、新たな目標を掲げ、その達成状況を評価していくというかたちで運営がなされていますが、令和3年2021年度はその第三期中期目標・中期計画期間の最後の年度にあたり、今年4月からは、次の第4期中期目標・中期計画期間が始まるというタイミングにあたります。

第3期の最後、3月末日には、民博で、ビデオテークブースの改修工事が完了し、旧多機能端末室をみんぱくシアターに改修するなど、ビデオテークブースの改修工事が終了し、翌4月1日から公開することになります。

この次世代型の電子ガイドと連動したビデオテーク・システムとブースの更新は、実は、2008年度から始まった民博の本館展示新構築の一環として計画されていたものです。これまで新構築つまり本館展示の全面改修は2017年で一応完了したと申しあげてきたのですが、正確には、この3月のビデオテークブースの改修をもって、本館展示の全面改修がすべて完了するということになります。都合13年間がかかったことになりますが、その計画がここに完結すると思うと、概算要求から始まって、最初からこの計画にかかわってきた身として、感無量のものがあります。

この間、この作業を支えていただいた皆さんに、ここで改めて御礼を申し上げます。ご協力、本当にありがとうございました。

民博は、かねてから、人類の知「のフォーラム」、つまり研究者、研究の対象となっている社会の人びと、そして、研究の成果を利用する方々、の3者の間の、相互の交流と協働、新たな認識の共創の場を実現しようとして、活動を展開してきました。
新型コロナウイルス感染症の地球規模での拡大を含めて、人類の文明が大きな転換点を迎えるなか、第4期中期目標・中期計画期間においては、こうした活動をさらに先鋭化し、人類の文化と社会についての理解、ヒトの自己と他者についての認識を深め、人類共生社会の実現のための指針を示す「グローバル人間共生科学の創成」を機関の目標として活動を展開することとしました。

民博の機関としての基盤を担う公募型の共同研究は、さらに開かれた形で推進していきますが、「特別研究」や「フォーラム型情報ミュージアム」のプロジェクトも、新たなかたちで再出発することになります。

国際共同研究にあたる「特別研究」は、まだ仮題ですが、「ポスト国民国家時代における民族の再構築―グローバル人間共生科学の創成」をテーマとして、1研究プロジェクト3年、年次進行で計6件のプロジェクトを実施します。また第3期の「フォーラム型情報ミュージアム」を発展的に継承し、「フォーラム型人類文化アーカイブズにもとづく持続発展型人文学研究の推進」と題して、これまでのデータべース構築に加えて、より国際共同研究に重点を置いた形でプロジェクトを推進します。

博物館機能については、「持続可能な人類共生社会を目指すユニバーサル型メディア展示の構築」を進めます。これは、ICT(情報通信技術)も活用しつつ、最新の研究の成果を、よりわかりやすくかつ迅速に皆さまにお伝えしていく一方、障害をおもちの方や高齢者の方々も含め、だれもが楽しめる展示の実現をめざした、展示場のユニバーサル化を実現しようとするものです。

一方で、民博が所属する人間文化研究機構について言えば、今申しあげた民博のめざす「グローバル人間共生科学の創成」に向けて、機構の事業として、「コミュニケーション共生科学の創成」というプロジェクトを実施することを民博から提案しています。

これは、聴覚障害や視覚障害など、さまざまなコミュニケーションの負荷を克服して、グローバル共生社会の実現につなげることを目指すものです。民博の博物館活動は、このコミュニケーション共生科学の研究成果を社会実装する場というふうにも位置づけられます。

次期第4期には、大学共同利用機関の4法人、つまりわれわれが所属している人間文化研究機構のほか、自然科学研究機構、情報・システム研究機構、高エネルギー・加速器研究機構の4つの機構と、総研大(総合研究大学院大学)で連合体を組織し、分野を超えた研究の振興と人材育成の強化を図ることになっています。この連合体は、「一般社団法人・大学共同利用研究教育アライアンス」という、名称になります。屋上屋を重ねるような組織にするのでなく、異分野融合研究の促進など、連携の実を上げていくことが求められると考えております。

昨年も申し上げしたが、人類の文明は、今、数百年来の大きな転換点を迎えていると思います。
これまでの、中心とされてきた側が周縁と規定されてきた側を一方的に研究し、支配するという力関係が変質し、従来、 それぞれ中心、周縁とされてきた人間集団の間に、創造的なものも破壊的なものも含めて、双方向的な接触と交錯・交流が至る所で起こるようになってきている、という意味においてです。
そして、グローバル化の動きの中で、新型コロナウイルス感染症がほぼ同時に地球全体に広がるという事態に及んで、私たちは、今、人類がこれまで経験したことのない局面にいやおうなく立ち会うことになりました。

その状況の中で、私たちが現在の生活を送るうえで当たり前と思って来た慣行やルール、とりわけ、人類が近代に入って作り上げてきたあらゆる制度や規範の成り立ちやありようが洗い出され、その意義と存在理由が改めて問われることになっています。私たちには、「コロナ後」に、その一つ一つについて取捨選択をしつつ、新しいシステムを築き上げるという作業が求められているのだと思います。

しかも、このコロナ禍の状況の中で、社会に潜在していた差別意識が浮かび上がり、さまざまな新たな分断が生じてきています。戦後、世界が作り上げてきたシステムが揺るぎ始め、そのなかで、他者に対する不寛容や偏狭なナショナリズムが頭をもたげる局面が各所でみられるようになっています。それだけに、人びとが、異なる文化を尊重しつつ、言語や文化の違いを超えてともに生きる世界を築くことが、これまでになく求められます。
今ほど、他者への共感と尊敬、そして寛容に基づき、自己と他者についての理解を深めるという文化人類学の知が求められている時代はないように思われます。その知の国際的な中核拠点としての民博に課せられた使命は、これまでになく大きくなっていると思います。

唐突に聞こえるかもしれませんが、この年始に、良寛、あの江戸時代の禅僧の良寛さんの次のような歌に接しました。

何気ない歌ですが、現下の状況を思うとき、時代を超えて肝に銘じなければならないことをうたったものと、心に刺さりました。

コロナ禍の中、人と人との距離を保つことが求められる中でこそ、他者への共感と尊敬、そして寛容に基づき、自己と他者についての理解を深めることがこれまで以上に求められているのだと思います。

本年こそ、皆様にとりまして、明るく実り豊かな年になりますように。

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