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悪知恵がはたらくのはどっち? ――鵜と人間

年老いて、うまく魚を獲れなくなった1羽の鵜が魚たちに言った。もうすぐ人間が根こそぎ魚を捕りにくる。その前にわしが君たちを安全な場所に導いてやろう、と。魚たちはその言葉を信じ、鵜がいう秘密の場所に群れごと移動した。そこで、鵜は難なく一匹ずつ魚を食べていった。

フランスの詩人ジャン・ド・ラ・フォンテーヌが記した鵜をめぐる寓話である。

この寓話で鵜は、貪欲で、悪知恵がはたらく動物として描かれている。実際、鵜はその時にその場でもっとも獲りやすい魚を多く食べる。天然の河川や湖沼はもとより、養殖地や人工の池でもお構いなしである。ヨーロッパにも鵜は生息しており、各地で漁業被害を引き起こしている。ラ・フォンテーヌは鵜のこうした性質を踏まえながら童話を創作したのであろう。読者の皆さんも大きな違和感なく読んだのではないだろうか。鵜は貪欲だと認識されている証拠である。

このような鵜をいつ誰が漁業で使い始めたのだろうか。鵜飼い漁のことである。おそらく過去に「鵜がとった魚をとろう」と発想した人がいたのだろう。人間のほうが、悪知恵がはたらく動物である。とはいえ、鵜飼に関わる歴史資料がほとんど残っていないため、漁の開始年代や場所はさっぱりわからない。鵜飼は中国で始まって日本に伝わったとか、中国と日本で独自に始まったなどといわれているが、正確には分かっていない。

鵜飼い漁は鵜の優れた捕食能力を利用するため、じつは漁獲効率が高い。ゆえに、この漁で暮らしを立てることもできる。では、漁師たちは鵜をどのように利用して、いかに暮らしを立てているのだろうか。現在、国立民族学博物館では、わたしが中国で撮影した写真や映像、民博所蔵の鵜飼い船を公開したコレクション展示『現代中国を、カワウと生きる』(会期は6月30日~8月2日)を開催している。この展示を通して、カワウと生きる漁師の技を知っていただければ幸いである。

卯田宗平(国立民族学博物館准教授)

関連ウェブサイト

コレクション展示「現代中国を、カワウと生きる―鵜飼い漁師たちの技」



関連写真

船の止まり木からカワウを湖に放ち、漁を開始する(江西省鄱陽湖、2006年)