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個人、帰属集団、国家の意思をめぐる相克の解明と多文化国家の実現(2023.4-2026.3)

テーマ区分:民族と博物館

代表者:野林厚志

研究期間:2023.4-2026.3

プロジェクトの目的・内容

本プロジェクトの目的は、国家と民族との関係に関する先行の議論を、文化人類学的な視座から批判的に検討し、個人や個人が属する文化的集団の意思が尊重される多文化国家のありかたを探究することである。

現代社会において、個人の出生の過程の手続きに起因する無国籍状況をのぞき、多くの人々は1つあるいは複数の主権国家に属する。同時に、われわれ意識をもつ文化集団、すなわち広義の民族の一員として生まれ、生活する。当該集団との一定水準以上の一体感に支えられた自律性は、同胞、生活様式や慣習の継承、言語や宗教等の容認または保護の主張、自治権あるいは分離独立と、さまざまなレベルで発揮され、それは国家との矛盾をしばしば引き起こしてきた。ここで生じるのが、国家に属する個人、民族もしくは文化的集団に属する個人の利益や不利益が、国家との関係の脈絡において必ずしも一致しないということである。さらには、個人、帰属集団、国家、それぞれの利益と不利益が一致しないことが、それぞれの間の衝突や抑圧を生みだすことも少なくない。

本プロジェクトでは、個人と国家との間に生じる衝突や抑圧、その要因を個人の帰属集団である民族や文化的集団を分析の単位として明らかとする。そのうえで、多様な文化的集団が尊重される状況を国家がどのようにつくりあげていくことが可能かを議論する。

これまでの先行研究からは、民族概念は多義的であり、対象を分析し評価するための概念としては扱いが難しいということが認識されてきた。しかしながら、概念の全体を充分に理解し注意することにより、民族という言葉は逆に他の表現では代替できない非常に有用な概念となる。民族という切り口の粒度を変え、国家の政策等における民族認識の実態を理解することは、政治学や社会学における民族や人種の議論を人類学の議論と連結させるうえでの強みとなるであろう。また、文化集団のとらえかたを多様にすることにより、われわれ意識の異なる集団と国家との関係を浮き彫りにすることも可能となる。

対象とする文化集団の規模、時代、相対的な立場の違いを帰属の最小単位である個人にひきつけていくためのアプローチとして文化人類学は他の分野に勝るとも劣らない優位性を有している。それは、主権国家からなるシステムを前提として諸民族の現在と過去を分析し将来を展望してきた政治学や社会学との大きな違いとなる。

こうした基本的な考え方のもとで、本プロジェクトは民族と国家との間に強い影響・相互関係が生じるいくつかの問題群を扱い、個人、文化的な帰属集団と国家との間に存在する利益、不利益や矛盾を解明していく。具体的には以下のようなテーマを想定することが可能である。
①多文化国家と民族の共生 例:国民の管理と民族認識、文化(言語・教育・宗教)政策、経済政策
②先住民族と国家 例:先住民族政策、国家間関係
③民族の消費 例:博覧会(人間動物園)、民族学博物館、ヘイト行動
④国家イデオロギーと民族 例:社会主義、全体主義と民族との関係
いくつかの問題群は、民族の多義性を浮き上がらせるレベルの異なるケース・スタディを通して議論することが期待される。これらの異なる位相にある民族と国家との関係を比較検証し、21世紀における民族の概念を明らかにすることに貢献したい。

期待される成果

本プロジェクトを実施することによって、得られる学術的成果は次の点に集約されると考えている。すなわち、国家と民族との間の関係の多様性を通文化的に鳥瞰する見取図が得られることである。特に、共同研究員(館内)が中心となるアジア、オセアニア、ヨーロッパのケース・スタディからは、文明とその周縁、近代国家と植民地、多民族・連邦制等の、性格の異なる国家と民族との関係の人類学―生政治モデルを引き出すことが期待できる。国家と民族と関係は時代や地域によって多様であり、それぞれの状況をとらえ分析するうえでの民族の粒度は異なる。本プロジェクトでは、人類学の強みである個人や文化集団を対象とするよりミクロな粒度での民族のとらえかたの学際的な意義を明示する。国家をテーマとした研究は、政治学や社会学との学際的な議論が前提となることから、それらの分野における民族の粒度をも人類学が引き受け、国家、集団、個人をつなぐことができる人類学の研究上のプレゼンスを示すことを目指す。

みんぱく公開講演会

2023年11月10日(金)
みんぱく公開講演会「依存するヒト――民族・国家・嗜好品」

国際シンポジウム

2024年度開催予定