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フォト・エスノグラフィーの実践に関する方法論の検討

研究期間:2023.10-2026.3

代表者 岩谷洋史

キーワード

写真、エスノグラフィー、方法論

目的

現代の視覚技術の発展は、日常生活だけでなく、人類学を初め様々な学問分野においても視覚的なものの存在感を高めている。本研究は、視覚メディアのなかでも特に「写真」に焦点を絞り、現地調査によって生成、もしくは収集される写真資料を活用する一つの方法として、「写真」を主体にしたフォト・エスノグラフィーの実践を理論的に吟味し、明言化・定式化を図ることを大きな目的とする。本研究では、エスノグラフィー(資料収集、整理・編集・管理を経ての調査資料化、体系的な構成を基盤とした成果の表現といったプロセス)を研究手法として捉えた上で、①エスノグラフィーの再考、②エスノグラフィーにおける「写真」の位置付けの精査、③知識形態としての「写真」の視覚的表現の方法の検討を行い、申請者がこれまでの研究活動で得られた知見を土台に、フォト・エスノグラフィーの実践を拡張、深化させつつ、写真資料を組織化する行為を通じて調査者のフィールド経験を再構成していくプロセスを方法論的に考察する。

2024年度

本年度は、研究会を3回、開催する予定である。特別講師を含めて、研究組織のメンバーから毎回2名程度、研究発表者として報告を依頼する。前年度の2023年度の研究会での研究発表によって、これまでの研究成果によるフォト・エスノグラフィーの実践の諸具体例が示され、構想されたフォト・エスノグラフィーに内在する諸課題を見出し、整理した。その上で、メンバー間で知識として共有された、それに関する基本的な枠組みを利用して、特定の写真資料を用いながら、メンバーがフォト・エスノグラフィーの実践を部分的に行い、メンバー間で相互に意見交換を行う。それと同時に、とりわけ、①調査者によって生成される写真の特性、②言語的な表象(書記言語だけでなく、口頭言語を含む)と画像的な表象との間の関係、③エスノグラフィーの概念を再考しつつ、それにおける写真の位置付け、④表現手法としての写真の見せ方といった特定のトピックについて中心的に検討や議論を行う計画を立てている。

【館内研究員】 丹羽典生、末森薫、石山俊
【館外研究員】 足立薫、梅屋潔、榎本千賀子、岡田浩樹、大村敬一、大日方欣一、小林美香、島村恭則、髙梨克也、田中雅一、田原範子、花村俊吉
研究会
2024年5月25日(土)13:00~17:30(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
発表者:岡田浩樹(神戸大学)・岩谷洋史(姫路獨協大学)
発表テーマ:フォト・エスノグラフィーによるフィールド体験の再構成:人類学調査実習を通じての考察(仮題)
令和6年度の研究活動の打ち合わせ

2023年度

研究会を2回(12月、2月)開催する予定である。第1回目は、研究代表者(岩谷洋史)が研究会の趣旨、及び研究の枠組みについて、共同研究構成員と確認する。第2回目は、研究代表者が構想したフォト・エスノグラフィーの手法を用いた実践の具体的な例(大学院生対象の調査実習、構成員による実践)を報告し、フォト・エスノグラフィーの基本的枠組みの再検討を行う。

【館内研究員】 丹羽典生、末森薫、石山俊
【館外研究員】 足立薫、梅屋潔、岡田浩樹、大村敬一、大日方欣一、小林美香、島村恭則、髙梨克也、田中雅一、田原範子、花村俊吉
研究会
2023年12月2日(土)13:30~18:00(国立民族学博物館 第6セミナー室 ウェブ開催併用)
発表者:岩谷洋史(姫路獨協大学)
発表テーマ:フォト・エスノグラフィーのモデリングとその課題
共同研究の今後の活動に関する意見交換
2024年2月11日(日)13:30~18:00(国立民族学博物館 大演習室 ウェブ開催併用)
発表者:岩谷洋史(姫路獨協大学)
発表テーマ:フォト・エスノグラフィーの実践(具体例その1)
発表者:田原範子(四天王寺大学)
発表テーマ:フォト・エスノグラフィーの実践(具体例その2)
発表者:花村俊吉(京都大学)
発表テーマ:フォト・エスノグラフィーの実践(具体例その3)
今後の活動の打ち合わせ
2024年3月23日(土)13:30~18:00(国立民族学博物館 第5セミナー室)
タイトル:現代社会におけるアウシュヴィッツ・ビルケナウ博物館の役割について(公開共同研究会)
司会:田中 雅一
発表者:田中 雅一(国際ファッション専門職大学)
テーマ:趣旨説明
発表者: Tomasz Michaldo(ポーランド国立アウシュヴィッツ・ビルケナウ博物館)
テーマ:アウシュヴィッツ博物館の現代社会における役割とアーカイヴ実践
発表者:中谷 剛(ポーランド国立アウシュヴィッツ・ビルケナウ博物館)
テーマ:アウシュヴィッツにおけるガイドの役割と写真の効用
コメントと総合討論
コメンテーター:岩谷 洋史(姫路獨協大学)

公開共同研究会の詳細はこちら

研究成果

初年度の2023年10月から2024年3月までに計3回の研究会を開催した。第1回目研究会では、岩谷がフォト・エスノグラフィーにおける基本概念の理論的な説明や、今後、計画している共同研究の方向性を示した。その上で、共通の写真資料を用いてメンバー各自がフォト・エスノグラフィーの実践を行っていく計画の立ち上げを検討した。第2回目研究会では、岩谷、田原、花村がフィールド(岩谷が国内の酒造現場、田原がウガンダのアルバート湖湖畔の集落、花村が瀬戸内海の離島)にて、各自が設定したテーマに沿ったフォト・エスノグラフィーの実践を行った具体的な成果の発表を行った。メンバー間でフォト・エスノグラフィーの基本的な骨格に関する知識を共有するとともに、それの問題点を整理した。第3回目研究会は、共催という形態でアウシュヴィッツ・ビルケナウ博物館から特別講師2名を招聘した公開共同研究会を開催した。当該博物館における記録としての写真のアーカイブ化や活用の意義に関する知見を得ることができた。以上の3回の研究会での報告と議論を通じて次年度の研究活動の土台を作ることができた。