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川のギャングと生きる 鵜飼いを支える中国の食

2022年7月2日刊行
卯田宗平(国立民族学博物館准教授)

カワウといえば潜水して魚を狙う鳥として知られている。全身黒褐色のカワウが編隊をなして飛んでいる姿や、一羽が単独で水中に潜る姿をよく見る。最近では漁業被害を起こす害鳥として駆除の対象にもなっている。それほど魚を獲(と)るのである。湖や河川の漁師たちが「川のギャング」というのも分かる。

このギャングに注目した人たちがいる。中国の鵜飼(うか)い漁師たちである。カワウは水中で魚をくわえ、水面に浮かび上がって魚を頭から丸のみする。「鵜呑(の)み」である。これを見た人たちのなかに「横取りしよう」とひらめいたものがいたのだ。どちらがギャングか分からない。いまから2000年以上も前のことだとされる。ただ、いつどこで誰が鵜飼いを始めたのか正確には分かっていない。

漁が終了し、カワウを止まり木に戻す漁師
漁が終了し、カワウを止まり木に戻す漁師
=中国江西省で2008年、筆者撮影

ひとつだけ確かなことはある。この特殊な漁法がいまでも続いていることだ。鵜飼いが生業として続く理由のひとつに漁の効率の良さがある。漁師たちは漁場にカワウを放ち、漁獲を得ると次の漁場に向かう。鵜飼いは漁師もカワウも次々と場所を変えながら魚を捕る。いわゆる「攻めの漁法」である。刺し網を水中に張って魚が絡まるのを待つ「待ちの漁法」とは大きく異なる。とはいえ、効率の良さは乱獲と表裏であり、鵜飼いを禁止する地域もある。それほど魚が捕れるのだ。

私は昨年、『鵜と人間―日本と中国、北マケドニアの鵜飼をめぐる鳥類民俗学』(東京大学出版会)を上梓(じょうし)した。この本では、3カ国の比較調査を踏まえ、鵜飼いを支える食文化の重要性も指摘した。どれだけ漁獲が良くとも、捕れた魚が売れなければ生業として続かないからである。

ことに、カワウはその時にその場でもっとも獲りやすい魚を獲る広域食者(ジェネラリスト)である。よって、鵜飼いでは一回の操業で捕れる魚の種類が多い。それでも生業として成り立つのは、さまざまな淡水魚を食べる文化が中国各地で広く深く根づいているからである。

実際、中国では住民たちがフナやコイ、ナマズ、ハゲギギなどを黄金色になるまで油で揚げたり、姿蒸しにしたり、ニンニクやショウガなどの香味野菜と一緒に炒めたりして食べる。中国各地にはいまでも淡水魚の調理方法が豊富にある。こうした食文化の多様性が漁獲魚種の多い鵜飼いをいまでも支えているのである。

現在、国立民族学博物館において、私が中国各地で撮影した写真や映像、民博所蔵の鵜飼い船を公開した展示「現代中国を、カワウと生きる」を開催している。この展示を通して、漁師たちの技とともに、中国の多様な自然環境や淡水魚の食文化を知っていただければ幸いである。