コロナ禍に対するローカルな対処としての「文化の免疫系」に関する比較研究(2020.12-2024.3)

緊急枠:現代文明と感染症

代表者:島村一平

研究期間:2020.12-2024.3

プロジェクトの目的・内容

新型コロナウイルス感染症がほぼ同時に地球全体に広がるという事態に及んで、社会に潜在していた差別意識が浮かび上がってきている。そうした中、吉田憲司が指摘するように人類が近代に入って作り上げてきたあらゆる制度や規範の意義と存在理由が改めて問われている。一方、宗教学者の島田裕巳は、新型コロナウイルスの流行は宗教に致命傷を与えた、と主張する。というのも宗教は、信者が集まることによって成り立つものであり、その活動に大幅な制限が加えられるからである。しかし人類学が関心を持ってきたミクロかつローカルな文化実践に関しては、必ずしも人が集まるわけでもない。むしろコロナ禍に対して「文化の免疫系」とも呼べる様々な対抗策がなされていると考えられる。そこで本プロジェクトでは、コロナ禍に対して東アジア地域(日本・中国・韓国・台湾・モンゴル・シベリア)を中心としながらもアフリカやヨーロッパといった他地域も視野に入れながら、どのような「文化の免疫系」が発動しているか、その態様を比較考察することを目的とする。

感染症については、浜田明範が指摘するようにバイオメディシンが圧倒的に有効である。その一方で、バイオメディシンの実施法を含めた対処法に関しては、ローカルな差異があるといえる。そこで本プロジェクトでは「コロナ禍にいかに対処してきたか」という「対処法」を「文化の免疫系」と名付け、いろいろな国や地域、あるいは現場での「ローカルな対処」の事例を集めていく。

例えば、モンゴルでは、仏教の総本山ガンダン寺によるコロナ退散儀礼に人が集まらないなど、既成宗教の存在意義が問われている。その一方で伝統的な母性崇拝に抵触するような事件(コロナを罹患した産後まもない女性に対して防寒着を着せずに搬送)に対して政府や国家緊急事態委員会への責任が問う大規模デモが起こり、今年2月、内閣が総辞職するにいたっている。

中国では、北京、瀋陽と泉州において、コロナ禍を含む疫病流行の際に、薬草、護符などの伝統的文化実践がどのように予防と治療に取り入れられてきたのか、明らかにする。

日本では、医療従事者に対する偏見や差別に対して、社会がどのようにその偏見や差別をなくそうとしてきたのかを「文化の免疫系」と捉え、その具体的な事例について調査する。また研究者だけでなく、現場の医療者やコロナの患者などもゲスト・スピーカーとして呼んでいくことで日本国内におけるコロナ禍に対する対処を検討していく。

韓国ではコロナ禍によって「免疫力の向上」ということが話題になり、自分を守るための「健康な体づくり」の議論が活発となった。そこで民間と韓方医学が、新しい病気に対応するヘルスケア形態(health behavior)をどのように変化させているのかを明らかにしていく。

こうした文化の免疫系の諸態様を人類学にとらわれず、さまざまな分野や地域を専門とする研究者と研究会で議論を重ね、最終的に国際シンポジウムを開催するものとする。

期待される成果

コロナ禍による各国の政策レベルでの対応は、マスメディアによって可視化されるようになった。その一方で、コロナ禍に対するローカルかつミクロなレベルでの対応や、病院などの医学の対応ではなく文化としての対応に関しては、あまりみえて来ない。まずは頃合を見計らいながら、現地でフィールドワークをすることで、コロナ禍に対して、それぞれの国でどのような文化実践がなされているのか、が明らかになってくることであろう。

コロナ禍は近代システムだけでなく、ローカルな文化実践についてもその存在意義を投げかけているといえる。そこでどのような形で「文化」がふるいにかけられ、どのようなものが残っていくのか、について東アジアの事例をもとにある程度のモデル化ができるのではないかと期待している。また、本プロジェクトは、英語による書籍化も視野に入れている。研究成果を英語で発信することで、一定の注目は得られるのではないかと判断する。

国際シンポジウム

2022年度開催予定