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ポストナショナリズム時代の博物館の挑戦――少数/先住民族の文化をいかに展示するか(2022.4-2025.3)

テーマ区分:民族と博物館

代表者:鈴木紀

研究期間:2022.4-2025.3

プロジェクトの目的・内容

本プロジェクトの目的は、ポストナショナリズム時代に博物館で少数/先住民族文化を展示する際の課題を探究し、その克服に向けてさまざまな博物館で行われている試みを共有することである。

ポストナショナリズムとは、国民国家の統治機能や、それへの信頼に基づく国民的アイデンティティが相対的に弱まり、人々の生活において国家よりも大きな国家横断的な組織/制度や、国家よりも小さな地域的、社会的組織/制度の重要性が増す現象である。国境を超える人と情報の流れが増大するグローバル化と、国内の特定のアイデンティティが強化されるローカル化が同時進行する過程、いわゆるグローカリゼイションが従来の国民国家体制に及ぼす一連の変化をポストナショナリズムの兆候として認識することができる。

この現象は少数/先住民族の文化にも影響する。一方で、少数/先住民族の人びとが生存の機会を求めて外国へ移住することによりグローバルな社会関係へ参入する場合、移住先で文化の変容や再構築を迫られることになる。他方で国内に留まり、経済発展の機会や政治的地位の向上を求める場合には、民族としての正統性を主張するために自文化の客体化や本質化が進む傾向が見られる。こうして同じ民族の間で文化の均質性が減少し、民族的アイデンティティに濃淡が生じてくると考えられる。文化やアイデンティティが多様化してくる少数/先住民族の姿を博物館はどう描けばよいのだろうか。

もともと博物館は、18世紀末以降、国民国家の成立とともにヨーロッパ諸国で誕生した制度である。独自の歴史と文化を国民に示し、同胞としての一体感を醸成するのに寄与してきた。反面、国内の少数/先住民族や国外から流入する移民の存在は、博物館展示において等閑視されてきた。この状況に対し、近年ではポストコロニアル批判によって、博物館の少数/先住民族に対する支配的な関係性が問題視され、かわって両者の間の対話や協働が提唱されるようになっている。本プロジェクトが焦点を当てるのは、そうしたポストコロニアル批判を踏まえ、少数/先住民族と博物館との対等性を前提に、博物館が少数/先住民族の文化をどのように展示するかという問いである。

具体的には、次のような問題が想定される。少数/先住民族のいわゆる伝統文化を示すのか、変容した文化を示すのか。彼ら/彼女らの民族的アイデンティティを強固なものとして示すのか、流動化あるいは多元化するものとして示すのか。そして根本的には、国家と少数/先住民族の通時的/共時的な関係性をどのように展示するのかという問いに向き合う必要がある。博物館と少数/先住民族の間の対話を実りあるものとするために、上記の問題に対するポリシーを博物館が主体的に準備しておくことは、ポストナショナリズム時代の博物館の大きな挑戦である。

期待される成果

本プロジェクトの成果として次の3点が期待される。第1に、ポストナショナリズムという概念を手がかりに、世界の少数/先住民族の文化に生じている変化を分析することである。第2に、そうした変化を前提に、少数/先住民族の文化を博物館で展示する際の課題を明らかにすることである。第3に、その課題を踏まえて、本館の国家と少数/先住民族に関する展示を再検討し、今後の展示企画の指針となる議論を行うことである。

とくに第3の点は重要である。 国立民族学博物館は、「国立民族学博物館展示基本構想2007」(2007年)においてフォーラムとしての博物館という認識を表明し、展示の作り手としての研究者、展示の対象である文化に属する人びと、および来館者の3者間の対話の促進を宣言した。その後、フォーラム型情報ミュージアムプロジェクト(2014-2021年)を通じて、対話機能をもつデータベースの整備を行った。本プロジェクトはこうした取り組みを踏まえ、展示を作る研究者がいかにフォーラムの場に臨むかを検討するものである。フォーラムとして国立民族学博物館を機能させるために、これまでよりも一歩踏み込んだ議論を目指したい。

国内シンポジウム

2024年1月20日(土)
みんぱく創設50周年記念・特別研究シンポジウム
「特別展<先住民の宝>再訪:国立民族学博物館における少数/先住民族展示の試み」

国際シンポジウム

2024年2月25日(日)
みんぱく創設50周年記念・特別研究国際シンポジウム
「ポストナショナリズム時代の博物館――少数/先住民文化展示の動向」