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特別研究 第4期中期目標期間(2022-2029)

第4期中期目標期間
テーマ:ポスト国民国家時代における民族

「ポスト国民国家時代における民族」について

グローバル化の進行や大規模な人の移動とともに、人種差別、移民排斥、マイノリティ弾圧、民族紛争、ジェノサイドなど、民族間の対立や分断が世界各地で激化している。日本も例外ではなく、多文化共生施策に推進してはいるものの、外国人労働者問題、民族に基づくヘイトスピーチ、民族的マイノリティ差別などの問題は依然として解決しておらず、むしろ深刻化しているようにみえる。

これは、国民国家が地位や影響力を低下させ、民族間関係を管理する体制を以前のように維持できなくなり、もともと異なる歴史的時期や異なる社会で異なる意味を担ってきた民族というカテゴリーが、その意味や境界、使用法をいっそう流動化させたことと関係していると考えられる。また、家族やコミュニティ、国家、ジェンダー、宗教、階級など、民族と重層的に絡み合って作用し世界を秩序づけていたカテゴリーが根本から問い直され、民族カテゴリーとの境界があいまいになっていることとも関連しているにちがいない。ある社会で自然なものとされていた民族の区分が異議を唱えられ、変容している過程を観察することで、我々はその社会の内部で起きている問題について多くのことを理解できるだろう。

本研究の目的は、こうしたポスト国民国家時代における民族の再編成の過程を、文化、政治、経済、社会、環境、歴史等の全体論的な視点からとらえ、人類の共生社会の実現に寄与する新しいアプローチを提示することにある。特定地域における民族集団間の境界における相互作用や、変化する国際情勢のもとでの国家による民族の再分類、地域を越えた民族的アイデンティティの生産過程などを記述するとともに、そうした現場で歴史的に出現してくる新たな民族というカテゴリーの機能や、そうしたカテゴリーをその効果として生産する経済、社会、宗教、環境領域でのさまざまな言説や実践、制度の絡まり合いについて世界的規模で比較することを試みる。とりわけ先住民、国際的な労働移民、民族紛争、異文化表象、エスノナショナリズムなどにかかわる問題に焦点を当て、人類の共生社会の実現に向けて、問題解決を志向する文化人類学的研究の新しいパラダイムを提唱することを目標に掲げる。

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